世界の終わりはどうなる 
気温70度の灼熱大陸、酸素がない時代到来

止まらない地球温暖化や核戦争の懸念は世界の終わりを招きかねない重大な危機だ。これまでも人類は知恵をめぐらし、氷河期や感染症の大流行などの緊急事態を乗り越えてきた。だが一部の科学研究は巨大な大陸が出現して気温がセ氏70度に達する灼熱(しゃくねつ)の乾燥地域が広がったり、生存に欠かせない酸素が欠乏したりする時代が将来訪れると予測する。いずれも数億年以上先の見込みだが、人類は科学技術の力を駆使して滅亡を避けられるのか。

2億5000万年後の巨大大陸の想像図。
人類が住めない高温の乾燥地帯が広がる可能性がある=英ブリストル大学提供

巨大な大陸に人類が住めない高温の乾燥地帯が広がる――英ブリストル大学は未来の地球の殺伐とした環境を予測した研究成果を2023年に英科学誌「ネイチャー・ジオサイエンス」に論文で掲載した。

地球の陸地はプレート(岩板)に乗り、毎年数センチメートル程度ずつ動く。研究チームはこの「大陸移動」と呼ぶ現象についてコンピューターでシミュレーション(模擬実験)を実施した。すると、約2億5000万年後にはユーラシアやアメリカなど複数の大陸が1つに集まり、巨大な「パンゲア・ウルティマ大陸」ができる可能性があることが分かった。

巨大大陸には夏の気温が40〜70度に達し、人類が住めない過酷な環境が広がると研究グループは予測する。この時代には陸地の移動などの影響で火山が活発に噴火し、太陽からの熱をためこむ二酸化炭素(CO2)が大量に出る。また海から遠い巨大大陸の内陸には熱がこもる。

これらの要因のために年間を通した大陸の平均気温は35.1度と、現在の世界の平均気温と比べて約20度も上昇する。

夏の巨大大陸の気温の分布。セ氏60度に達する地域も出る=英ブリストル大学提供

問題は高温だけではない。巨大大陸の大部分は乾燥した荒野に変わり果てる。水蒸気を含む海からの風が届きにくいためだ。

巨大大陸で人が住める面積はわずか8%と、現在の地球に比べて9分の1程度に減る。農地や森林が減少して水や食糧が不足し、人類や生物が生き残るのは難しくなる。研究グループは「(恐竜の絶滅など)地球の歴史で5回起きた大量絶滅に匹敵する規模の危機だ」と指摘する。

600万〜700万年前に登場したとされる人類は、地球の平均気温が数度ほど下がる氷河期やペスト、インフルエンザなどの感染症の大流行を経験してきた。そのたびに暖かい衣服や狩猟用の道具、ワクチンなどの技術を編み出して乗り切った。だがブリストル大の研究が示す危機は、人類が経験したことがない未曽有の規模だ。

仮に人類がこの事態を乗り越えても、その後には第2の危機が待ち構えている。生きるのに欠かせない酸素の欠乏だ。

「今から約10億年後には大気中の酸素が現在の1%以下まで減り、ほとんどの生物が生存できなくなる」。東京科学大学の尾崎和海准教授が21年に発表した研究は大きな反響を呼んだ。ネイチャー・ジオサイエンスに論文を掲載した。いったい何が起きるのか。

大気にメタンが多かった太古の地球の想像図。
10億年後も同様にオレンジ色がかって見えるかもしれない=米航空宇宙局(NASA)提供

温暖化を招く大気中のCO2は産業革命以降に約5割増えたが、過去30億〜40億年間の長期でみれば約1000分の1に減少した。岩石が風化する時などにCO2を吸収したほか、陸や海で植物や海藻などが光合成をしたためだ。もし人類が化石燃料を燃やさなければ、今から10億年後には大気中のCO2はほとんど無くなる懸念がある。

すると植物などが光合成で酸素を作れなくなり、生物の呼吸などで使い尽くされる恐れがある。地球の大気は一変し、窒素やメタン、水蒸気が主な成分になる可能性がある。地球の環境は呼吸で酸素を使わない細菌しかいなかった太古の時代に逆戻りするかもしれない。

酸素の欠乏を乗り越えた後も、人類の苦難は続きそうだ。その「犯人」は遠い宇宙から来る恒星だ。米国の天文関連の研究所「プラネタリー・サイエンス・インスティテュート」は5月、科学誌「イカロス」に論文を掲載した。


研究によると今後40億年の間に遠方から到来する恒星が太陽系を通過する可能性がある。恒星の重力は天体の軌道を変え、地球は0.2%程度の確率で太陽系の外へ放り出される。そうならない場合も地球の軌道が変化し、太陽から受ける光の量が増減して気温が変わる恐れがある。

灼熱の環境や酸素の欠乏、地球の軌道を乱す恒星の接近など、人類の未来には数多くの危機が待ち受けている。その全てを完全に克服するのは難しいが、一助になりそうな研究も進む。例えば上空に微粒子をまいて太陽から届く光を減らす技術を使えば、気温の上昇にある程度は対応できそうだ。


様々な危機を科学の力で乗り越えても、今から約50億年後には老いて膨張した太陽が地球をのみ込むと考えられている。宇宙開発企業の米スペースXが構想を掲げるように、火星など他の星への移住も求められるかもしれない。地球の姿が一変する可能性が高い数億年後の未来に人類は生き残っているのだろうか。

(土屋丈太)

 

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