NTTとKDDI、6G光通信を共同開発
 消費電力100分の1へ

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Source: Nikkei Online, 2023年3月1日 18:00

NTTKDDIが次世代の光通信技術の研究開発で提携する。通信回線からサーバーや半導体の内部まで、光で信号を伝える超省エネの通信網の基盤技術を共同で開発する。情報流通の要であるデータセンター(DC)は全世界の消費電力の約1%を占め、今後も確実に急増する。両社は2024年中に基本的な技術を確立し、30年以降にDCを含む情報通信網の消費電力を100分の1に低減することを目指す。携帯電話の次世代規格「6G」で世界標準を狙う。

両社は近く合意書を交わす。NTTが研究開発を進める独自の光技術を使った次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」をベースに、エネルギー効率の高い通信インフラを共同で開発する。両社は国内で競合関係にあるが、次世代通信の開発で手を組むことで世界の通信会社や機器・半導体メーカーとの共同開発を推進する狙いもある。

あらゆるモノがネットにつながる「IoT」や人工知能(AI)の普及などで、ネットのデータ流通量は急拡大している。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界のDCの消費電力は21年に220テラ〜320テラ(テラは1兆)ワット時で、消費電力全体の1%前後を占めた。

科学技術振興機構の低炭素社会戦略センターの試算では、世界の通信網の消費電力は30年には18年比で約5倍、DCは約15倍に急増する。合計で21年の世界の消費電力の約2割に相当する。

現在も光ケーブルを使った通信回線では光で信号を伝送している。だが、基地局の通信機器やDCのサーバーなどの内部は光ではなく電気で信号を伝えている。光から電気に変換する際にエネルギー損失が発生し、消費電力が増大する要因になっている。

NTTは「IOWN」の研究開発に力を注ぐ

NTTは、通信回線だけではなく機器・サーバーや半導体などの信号処理も全て光のまま実現する「光電融合」技術を開発している。エネルギー損失が少なく、消費電力を従来の100分の1に抑えられるとみている。データの伝送効率も高く、光ファイバー1本当たりの伝送容量を125倍に伸ばせるほか、遅延時間を200分の1に抑えられるという。IOWN関連の研究開発や設備に22年度に総額670億円を投資している。

一方、KDDIは国際通信に使う海底ケーブルの大容量化などで培った光伝送技術などを持つ。長距離の光伝送を効率よく実現できる。21年には大阪大学と従来の光伝送距離の世界記録を120倍更新する7200㎞の伝送実験に成功した。 IOWNは25年以降に順次商用化を目指しており、KDDIの伝送技術などを生かして開発スピードを上げる。

KDDIはNTTが20年に立ち上げたIOWNの技術仕様などを策定する国際団体にも参加する。既に光技術の半導体への活用をにらみ米インテルのほか、コンテンツの用途開発ではソニーグループといった国内外の100社以上の企業・団体が参加している。

両社が見据えるのは30年ごろに実用化が見込まれている6Gの通信網への活用だ。6Gは5Gの10倍以上の伝送速度を実現可能だが、通信インフラが既存技術のままでは消費電力がかさむほか、伝送容量などが足りなくなる恐れがある。国内の通信会社トップ2社が組んで技術的な課題を克服し、6Gの標準規格策定の議論でも主導権を握りたい考えだ。

5Gではインフラ整備で米国や韓国に1年ほど遅れた。日本は6Gでの巻き返しを国を挙げて狙っている。1月には政府の後押しを受けて、情報通信の国際規格を定める国際電気通信連合(ITU)の重要ポストにNTT出身者が就いた。

技術の世界標準を目指した動きでは、1999年にNTTドコモが実用化したネット接続サービス「iモード」がある。海外の通信会社に次々と資本参加したが、独自仕様へのこだわりなどから世界には普及しなかった。NTTはその教訓を生かし、IOWNでは実用化前から国内外で仲間づくりを進めている。

光通信技術については米AT&Tなどの通信会社やフィンランドのノキアなどの機器メーカーも研究開発を進めている。米グーグルや米メタ(旧フェイスブック)は自ら海底ケーブルの敷設にも乗り出している。DCの消費電力削減では半導体の回路設計や素材などで新たな技術を確立する動きなどがある。

ただ、通信の回線から機器まですべて光でデータを伝送・処理する技術ではNTTが優位に立つ。次世代通信を巡る主導権争いのなか、NTTとKDDIは協力して技術の早期確立を目指す。