競い合うAI、分断生む 世界の虚構も生成

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Source: Nikkei Online, 2023年4月18日 5:00

AIで選別しようとする企業に、AIで備える学生が増えている

3月、トランプ前米大統領が警察に拘束される画像がツイッターで出回った。現実に起きた事象だと、脳が錯覚を起こす。精巧なフェイク画像が社会にあふれている。

米中対立のはざまで揺れる台湾でも、SNS(交流サイト)で偽情報がはびこる。「多くが中国大陸からだ」。台湾で年間数千万件ものファクトチェックを手掛けるIORG共同創業者の游知澔氏は指摘する。

「AIが偽情報を大量生成し、人間の不安心理をあおることもできる」(游氏)。その警鐘は現実となっている。

米調査会社グラフィカは、SNSで米国の銃政策を批判する架空の番組を発見した。アナウンサーの動きは英国企業のAIで作られたとみられる。

米調査会社ユーラシア・グループは2023年の10大リスクに「大混乱生成兵器」としてAIを挙げた。虚実混交する現実に、国立情報学研究所の越前功教授は「信頼の根幹が揺らいでいる」と語る。国際調査会社イプソスによると、AI企業を信頼する人はフランスで34%、米国で35%。中国(76%)などと差があり、日欧米で不信感が強い。

動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」などAIで好みの情報が集まる「フィルターバブル」も、分断を生む温床となる。価値観と違う情報を遠ざけ、孤立を招く。それでもAIは日常に溶け込む。

「リーダーシップを発揮した経験は?」。同志社大学の小林悠人さん(仮名、21)は2月、採用面接に臨んだ。相手はAIの面接官で、スマホに志望動機を話しかけた。

小林さんも対策にAIを駆使。キャリアボット(東京・世田谷)のサービスを使い、「ChatGPT(チャットGPT)」でエントリーシートを添削した。

AIで選別しようとする企業に、AIで備える学生。AI対人間ではなく、AIとAIのどちらが優れているかを競う。

AIが人間の意思決定を支配するのか。富山大学の佐藤裕教授は「既存情報に沿っているに過ぎず、正解だと考えるのは錯覚で危うい」と強調する。実際、AI離れが表面化し始めた。

「AIに株価を予想させようとは思わない」。米ゴールドマン・サックスでAIの運用部隊を率いる諏訪部貴嗣氏は断言する。

AIで運用するヘッジファンドの成績を指数化したエウレカヘッジの指数は、17年末から23年2月まで12%しか上昇せず、米国株のS&P500種株価指数が5割高に対し劣る。判断は再び人間へ、金融で揺り戻しが起きている。

IORGの游氏は台湾の学校計約300校と協力。授業テキストを提供し、情報判断力を学生時代から鍛える重要性を訴える。

東京工業大学の笹原和俊准教授は、偽情報を作る体験をしたグループとしないグループとで、だまされやすさに差が出るかの実験を近く始める。「身をもって体験することが、だまされないための第一歩だ」と語る。

何が正しくて、何が間違っているか――。

判断力を磨き直すことが問われてくる。

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