近づく戦争への活用、AI競争力が覇権左右 問われる倫理

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Source: Nikkei Online, 2023年4月20日 5:00

AIで遠距離から標的を特定し、自動で照準をつける(SMARTSHOOTER提供)
【この記事のポイント】
・人工知能を搭載した銃は15カ国超に配備されている
・AIにより軍隊や戦略も変わる可能性がある
・強権的な国家ほど有利に開発、人類の脅威に

相手の兵士をロックオンすると、人工知能(AI)が400メートル先の群衆の中から自動で検知する。標的の動きや風速を計算して照準が追尾し、あとは引き金を引くだけ――。イスラエルのスマートシューター社が開発したAI銃。2月下旬にアラブ首長国連邦(UAE)で開かれた武器展示会では実際の追尾力を試すデモに参加者が殺到した。

無人航空機(UAV)に取り付け、複数の武器をネットワークでつないで狙い続けることも可能だ。米国やインドなど15カ国超が導入しているという。

国連は報告書でUAVなどの自律型致死兵器システム(LAWS)の危険性に触れ、リビアの内戦で使われた可能性を指摘する。ロシアのウクライナ侵攻でもAIを搭載した兵器が投入されているもようだ。

AIは兵器のみならず戦略も変える。米軍は米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)などと組み陸、海、空、宇宙の部隊の情報を統合してAIで戦略を立案する「全領域統合指揮統制(JADC2)」構想を進める。中国はAIなどの先端技術を人民解放軍に導入し今世紀半ばに米軍を追い抜く国家目標を掲げる。

米AI国家安全保障委員会(NSCAI)の報告書ではAIの開発競争は半導体技術が左右すると指摘し、現状のままでは中国などに「主導権を握られる」と警告する。米国はAIの研究開発予算を年3兆5千億円確保する方針を掲げた。一方、中国も研究開発費を毎年7%以上増額する計画を掲げる。

調査会社アライド・マーケット・リサーチの推計では自律型兵器の市場規模は2030年に301億ドル(約4兆円)にのぼり、10年で2.6倍に拡大する。

法務情報サービスの米レクシスネクシスによると、AI関連の特許保有数は騰訊控股(テンセント)、百度(バイドゥ)の中国勢が19年ごろから米IBMや韓国サムスン電子、米マイクロソフトなどを急追。21年にツートップの座を確立した。民間で中国優位が進んでいる。

米グーグルは18年にAIが音声で予約代行などを担うサービスを発表すると、詐欺への悪用懸念で批判を浴びた。米国防総省とドローンのAI制御で提携する試みが社内の反発で撤回した経緯もあり、倫理面の制約は多い。

防衛省防衛研究所の小野圭司特別研究官は「中国の強権体制は大きな優位性だ」と話す。民主主義国が法規制や社会倫理に縛られる中、開発が認められる場は技術者にとって研究も進みやすいためだ。

「AIは軍隊を明確に変えている」。2月にオランダで開かれた初のAI兵器の規制会議「REAIM(リーム)」で、同国のフックストラ外相が米中など約50カ国の参加者にルールづくりの必要性を訴えた。米政府はAI兵器に関する説明責任などを盛り込んだ宣言を発表した。

「人に従え、されど人を害するな」。SF小説家のアイザック・アシモフが1942年に示した「ロボット工学三原則」。80年前の空想世界からの課題に、人類は今まさに直面している。

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