マイクロソフト社長「生成AI、開発の手ゆるめず」

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Source: Nikkei Online, 2023年4月21日 23:12更新


米IT(情報技術)大手マイクロソフトのブラッド・スミス社長は21日、日本経済新聞の取材に応じた。提携する米オープンAIが開発した「Chat(チャット)GPT」などの生成人工知能(AI)について、「開発を遅らせるのではなく、(安全確保のための)ガードレールをつくる仕事を急がなければならない」と事業展開を続ける姿勢を示した。

ルール整備や開発を透明に

チャットGPTは2022年11月の公開後、異例の速さで普及。誤情報の拡散やプライバシー侵害といった懸念が浮上している。高度なAIの開発休止を求める声も高まるが、スミス氏は「新世代の法律や規制がいる」と各国政府の対応や官民でのルール整備が必要と主張した。

マイクロソフトは2019年に10億ドルを投資して以降、オープンAIを資金、技術の両面から支えてきた。AI戦略の要に位置づけ、自社の検索サービスや業務ソフトにオープンAIの開発成果を組み込んでいる。

AI開発の手を緩めない一方、企業の責任に関して「謙虚さが必要だ。AIがもたらす恩恵に興奮しつつも、あらゆるリスクを心配しないといけない」と述べた。具体的には開発の原則を明確にして、技術者の訓練や製品のテスト・監視などの継続が不可欠とした。


規制当局との対話を重視する方針も強調した。AI企業の役割は「AIがどう機能するのか、人々に情報を提供すること」とし、「理解が進めば、当局は正しい情報に基づく意思決定ができる」と語った。

世界的に労働人口が減るなか、「生産性を高めるAIは経済成長の新しい原動力だ」とも訴えた。雇用を奪うと警戒する声には「いま各国の一番の懸念は労働力を確保できないことだ」とAI活用が打開策になるとの考えを示した。

勝者総どりにはならず

洗練された文章や画像を生成する高度なAIは市場の拡大が見込まれ、2027年には世界で約16兆円に達するとの予測がある。マイクロソフトのほかグーグル、アマゾン・ドット・コム、メタなど米テクノロジー大手が研究開発に力を注ぐ。

一握りの企業が市場で支配力を強める恐れがあるとの見方について、スミス氏は「各国でイノベーションが起こる」と否定。恩恵を受ける企業は多いとの見方を示した。「AIのエコシステム(生態系)はウィナー・テーク・オール(勝者総どり)にはならない」と明言した。

高度なAIの開発では米国勢だけでなく「中国の北京智源人工智能研究院(BAAI)や百度(バイドゥ)、アリババ集団がいることを頭に入れておくべきだ」と述べた。中国勢に加え欧州やイスラエル企業も台頭していると訴えた。AIを使ったサービスの開発ではスタートアップ企業にも商機があるとし、日本では「5社のスタートアップに会った」と話した。

スミス氏は「オープンAIがつくった最先端のAIは(マイクロソフトの)データセンターで学習した」と協業の成果を強調。「より多くの人が新技術を使えるようにすることが両社のミッションだ」と語った。一方でオープンAIを買収する可能性については「現在の提携はうまく機能しており、両社とも興味はない」と否定した。

ChatGPTを開発したオープンAIとは提携関係を続けるとした

ゲーム大手買収は「楽観視」

マイクロソフトの歴史を振り返れば、各国の規制当局との緊張関係を抜きには語れない。90年代末にはパソコン用基本ソフト(OS)の「ウィンドウズ」をめぐり、米司法省が独禁法違反で同社を提訴。訴訟は長期化し、一時は「会社分割」の命令も出された。欧州委員会との争いもあった。

その後は政府やライバル企業との対話を重視する経営にかじを切り、攻めの姿勢が目立つ他のテック大手と一線を画してきた。ただ、22年1月に発表したゲーム大手の米アクティビジョン・ブリザードの巨額買収に対しては米連邦取引委員会(FTC)が買収阻止を求めて提訴するなど、マイクロソフトの影響力の高まりを警戒するムードも漂う。

アクティビジョン買収の実現についてスミス氏は「未来は見通せないが、楽観視している」と述べ、「より多くの人々にゲームを届けられる買収であり、競争を促す」と自信を示した。日本の公正取引委員会は3月に買収を承認している。

AIは人間の補助役に

イタリアでチャットGPTが利用禁止になるなど、生成AIに対する逆風も吹く。17日の米議会公聴会では、FTCのリナ・カーン委員長が「AIはあらゆる機会と同時に、あらゆるリスクも提供する」と述べ、AIサービスも調査対象となりうることを強調した。

生成AIを使えば詐欺メールなどを巧妙につくれ、サイバー攻撃などへの悪用が懸念される。スミス氏は「AIは人間よりも早く新たな攻撃手法を発見できる」と指摘。影響工作による偽情報の拡散も検知可能だとして、AIを駆使して攻撃に対抗する意向を示した。

マイクロソフトは「エクセル」や「ワード」などに使えるAIを副操縦士を意味する「コパイロット」と名付けている。AIはあくまでも人間の補助で、現時点では最終判断は人間の役割だと位置づける。ただ、将来、自動運転車のようにAIが自律的に判断する状況となれば「非常に慎重になるべきだ。規制が必要になる」と話した。

(本社コメンテーター 村山恵一、大越優樹)

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