「バラバラ行政」コロナで露呈
デジタル化に50年来の壁

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Source: Nikkei Online, 2023年5月5日 23:30更新

デジタル庁の発足式でオフィスの平井デジタル相(左画面)とオンラインで記念撮影する菅首相。
コロナ禍の行政の混乱が発足のきっかけだった(21年9月、首相官邸。肩書は当時)

新型コロナウイルスの初期対応は、政府や地方自治体が長年手をつけてこなかった行政システムの弱点をさらけ出した。その苦い体験は2021年9月のデジタル庁の発足につながった。だが利用者目線を欠く仕組みは50年ほど前に築かれた。変えるのは容易ではない。

「国が接種の進捗状況を一元的に把握できない」。日本でコロナワクチンの接種が始まった当初の2021年2月、政府関係者はバラバラな役所のシステムの実情を嘆いた。当時は住民情報を持つ地方自治体ごとにワクチン接種券が発行され、接種記録もそれぞれ管理していた。

接種の予約方法も用紙返送やオンライン予約などがあり、統一されていなかった。こうした背景には「地方自治」の一言では片付けられない歴史的な経緯がある。

役所の電算化が加速した70年代以降、電機大手は行政へのコンピューター導入を競った。自治体ごとにシステムは異なり、役所内でも業務単位で別のシステムが用いられた。政府による個人情報の一元管理への憲法上の懸念もあり、情報連携できない仕組みが長く続いた。

その弊害は国民1人に10万円を支給した特別定額給付金で露呈した。紙とオンラインの請求が併存。役所内で住民情報と給付関連のシステムはつながっていなかった。マイナンバーカードを使ってデジタルで申請された内容を、目視でチェックするという本末転倒な作業も一部で発生した。


英国などデジタル化が進んだ国では、ワクチン予約も給付金の申請もオンラインで数分で済むのが当たり前だ。菅義偉前首相もデジタル庁発足の訓示で「行政サービスの電子化の遅れや、国と自治体のバラバラのシステム。長年、先送りにされてきた課題はたくさんある」と歯がゆさを隠さなかった。

成果が出始めた分野もある。給付金の支給では、本人の同意のもとマイナンバーと給付金の振込先口座をひもづけることが可能になった。煩雑な申請なしで、自動的に給付が受けられる状況が整いつつある。

21年4月から運用開始したワクチン接種記録システム(VRS)は、デジタル庁の前身が主導して2カ月で開発。接種記録を一元的にまとめ、接種証明書アプリや統計に活用された。従来型の大型コンピューターではなく、クラウドサービスを活用したこともその後のデジタル政策に大きな影響を与えた。

ただ基幹業務のシステムや業務フローを一つにそろえる作業は簡単ではない。政府は25年度までにクラウド上で連携できる状態にすることを目指すが、自治体の反応は芳しくない。

特に従来型システムをクラウドに移行する作業は、政令指定都市など大規模な自治体では「IT(情報技術)人材が確保できず、期限までの実行は難しい」という声が漏れる。

デジタル化を進めていたウクライナはロシアの侵攻を受けて、政府の中枢機能を短期間で国外に退避させることに成功した。

平時でも非常時でも、いかに行政サービスを便利なかたちで継続させるのか。行政のデジタル化は国民の利便性向上だけでなく、国の持続可能性にも直結する。

(デジタル政策エディター 八十島綾平)

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