三菱UFJ、
旧行システム完全統合に次ぐ「大手術」へ

3メガバンクCIOに聞く(上)

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Source: Nikkei Online, 2023年5月29日 5:00

(みずほ銀行の写真:北山宏一)
日経コンピュータ


勘定系システムは非競争領域――。こう言い切る銀行すら出始めたなか、3メガバンクグループは勘定系システムをどう位置付けているのか。
3メガバンクの決断は、地方銀行やインターネット専業銀行のみならず金融事業を手掛ける大手IT(情報技術)ベンダーの戦略にも影響を与える。各グループの最高情報責任者(CIO)へのインタビューを通じて3メガバンクの勘定系システム戦略を明らかにし、その未来を展望する。

旧東京三菱銀行と旧UFJ銀行のシステムを完全統合した「Day2」以来の大手術――。
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が勘定系システムの根本的な見直しに挑んでいる。「アーキテクチャ戦略」をまとめ、2022年度からの10年間で約1400億円を投じる計画だ。MUFGでグループCIOを務める越智俊城執行役常務に同戦略を進める真意を聞いた。

三菱UFJフィナンシャル・グループ執行役常務グループCIOの越智俊城氏(写真:北山 宏一)

──三菱UFJ銀行を中心にシステムを抜本的に見直す「アーキテクチャ戦略」を21年から推進しています。このタイミングになった理由は何でしょう。

「私は17年にシステム企画部長に就きましたが、その頃から実はアーキテクチャ戦略という言葉が出ていました。当時は18年度に始まる中期経営計画を作るために『MUFG再創造イニシアティブ』を打ち出し、構造改革を進めていました。柱の1つがデジタライゼーションです。こうした動きをきっかけに(将来を見据えて)システムはどうあるべきか考え始めました」

MUFGのアーキテクチャ戦略のポイント

──システムのアーキテクチャーを評価した結果はどうでしたか。

「チャネル系システムと勘定系システムは密結合でメンテナンス性が悪いといった、いくつかの課題が洗い出されました。アーキテクチャ戦略はこうした課題を踏まえ、『10年先に困らないように』という方針でまとめています」

「アーキテクチャ戦略のテーマは大きく2つです。1つが堅牢(けんろう)性を維持しながら(レガシーシステムを手掛ける)人材や技術的な枯渇に対してどんな手を打っていくか。もう1つが(インターネットバンキングなどの)チャネルやアプリケーションの柔軟性や効率性をいかに高めていくかです」

──旧東京三菱銀行と旧UFJ銀行のシステムを完全統合したDay2は、投資額2500億円、総工数11万人月という規模でした。22年度からの10年間で約1400億円を投じるアーキテクチャ戦略はDay2以来の規模のプロジェクトでは。

「その通りです。Day2に次ぐシステムの大手術になると考えています」

勘定系は根源的な信頼を支える

──勘定系を「非競争領域」と捉える銀行も出始めたなか、同システムをどう位置付けていますか。

「勘定系システムは頻繁に変更を加えるものではありませんが、銀行の根源的な信頼を支えている仕組みです。そこが(塩漬けで)じっとしたままだと維持できなくなってしまうため、勘定系システムをいかに守っていくかはすごく大事なことだと思っています」

「例えばメンテナンスがしやすいように複雑な構造をシンプルにしたり、メインフレーム(大型汎用機)というハードウエアだけでなく、そこで動作するソフトウエアや開発ツールを整備し続けたりする必要があります。システム全体をモダナイズ(近代化)していくことは、我々にとって非常に重要な取り組みです」

──オープン基盤やクラウドの進化が著しい状況で、システムの堅牢性を維持するメインフレームの役割は今後どのように変化するのでしょうか。

「今、メインフレームが担っているのは、高い可用性と処理能力が求められるシステムです。今まではメインフレーム上で様々なシステムが動いていましたが、今後はメインフレームが担う部分を少なくしていきます。ソースコードをスリムにするだけでなく、メインフレーム上で動作する機能そのものを限定していく想定です」

「具体的には、融資や外国為替のトランザクションを管理したり、融資の審査をしたりする機能をメインフレームの外にどんどん出して、できればオープン系サーバー上で動作するパッケージソフトに置き換えたい。一方、口座振替などはひとたびトラブルが起きると、他の処理に影響を及ぼし、大変な事態を招くため、メインフレームが必要です。顧客への影響が大きい預金や為替も同様に必要でしょう」

このままではDXの足かせに

──このタイミングでシステムを見直さないと、DX(デジタルトランスフォーメーション)の足かせになるといった危機感があったのでしょうか。

「まさに17年にアーキテクチャーを評価したとき、『足かせになる可能性がある』と書かれていました」

──アーキテクチャ戦略をまとめる段階で、勘定系システムなどの全面オープン化は選択肢にあったのでしょうか。

「選択肢として(全面オープン化を)最初から落としてはいないと聞いています。フラットに検討した結果、今の形(メインフレームとオープン基盤のハイブリッド型)に落ち着きました」

──システム内製化の動きが強まるなか、日本IBMや日立製作所を中心としたITベンダーとの関係性は今後どのように変化していきそうですか。

「これまでの歴史をひもとくと、ITベンダーとは銀行のシステムをつくってきたというよりは、ミドルウエアなどベンダーの製品も含めて一緒に開発してきたという関係でした。そこの関係性は変えたくない。一方で人的リソースの調達でベンダーに頼ってきた部分については、人材の流動化や採用難を踏まえて、自前で手掛ける部分を増やす必要があるでしょう」

=つづく

(聞き手は日経FinTech 山端宏実、日経コンピュータ 玉置亮太)

[日経コンピュータ 2023年5月11日号の記事を再構成]

越智俊城(おち・としき)
1991年3月一橋大学商学部卒、同年4月三和銀行(現三菱UFJ銀行)入行。三菱UFJニコス常務執行役員などを経て、2022年4月より三菱UFJフィナンシャル・グループ執行役常務グループCIO。三菱UFJ銀行取締役常務執行役員CIOを兼務。

 

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