ホンダ、ソフト人材1万人に倍増
トヨタは9000人再教育

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Source: Nikkei Online, 2023年5月29日 18:07更新

ホンダはソフト人材を社内外で倍増させる(写真はホンダが今秋欧州で発売する新型EV)

ホンダはインドIT企業との提携などをてこに、ソフトウエア人材を2030年に現在の倍の1万人に引き上げる。トヨタ自動車も25年までに約9000人を再教育してソフト人材に転身させる。電動化などに伴い、ハードではなくソフトがクルマの競争力を決定づけつつある。業態転換に近い変化を迫られる中、各社は専門人材の確保を急ぐ。

ホンダでは現在、社内外で計約5000人が車載ソフトの開発を担っている。インドの開発会社、KPITテクノロジーズと提携を強化し、30年までにホンダ向けの開発を担う人材を現在から1100人増やし2000人強とする。

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ヒューマンリソシアの22年度の調査によると、インドの ITエンジニアの人数は226万人と世界で3位。日本の132万人を上回る。インドは工科大学が多いことに加え、初等教育でプログラミングを採り入れていたことが影響しているとされる。マイクロソフトのサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)や、アルファベットのスンダー・ピチャイCEOといったインド出身の米IT大手の経営者も多い。

IT人材が豊富で集めやすいインドの企業と協力することで開発を加速する。KPITは自動車業界の電動化や自動化を支援するソフト開発に強みを持ち、仏ルノーや独部品大手のZFなどとも協業している。

ホンダは採用などで自社人材も増やす。青山真二副社長は「(社内外の人材で構成する)ホンダの専属チームのようなものをつくりながら開発を進める」という。

25年に独自開発したソフトを初めて搭載した電気自動車(EV)を北米で販売する計画で体制を整える。車の「走る」「止まる」「曲がる」といった基幹機能に関わる部分のソフト設計はホンダが自ら担い、プログラミング作業や実効性の検証などの単純業務は協業先と連携する。

トヨタは25年までに9000人にリスキリング(学び直し)を促し、ソフト開発人材を増やす。学び直し講座を受講してもらったり、プログラミング言語を実際に打ち込んでソフトのノウハウを身につけたりといったことを想定しているとみられる。

既存の新車製造や販売といった部門の社員を電動化や自動運転に関する新領域に転換させる。先端技術の子会社「ウーブン・バイ・トヨタ」などとも連携し、グループ全体で今後1万8000人規模の開発体制を整える。外部からの中途採用に占めるソフト開発人材の割合も50%に拡大している。

ボストン・コンサルティング・グループは、車載ソフトが生み出す利益は21年の100億ドル(約1兆4000億円)から35年には260億ドルになると見込む。


自動車1台に搭載する電子制御ユニット(ECU)は過去に数十個だったのが、現在では100個近くになった車種もある。「ソースコード」と呼ばれるコンピューターに指示を与える文字列はすでに1億行を超えた。ソフト開発は労働集約的な側面が強く、人員規模が品質などの競争力に影響する。

世界の自動車関連企業もソフト人材の確保に知恵を絞る。

ゼネラル・モーターズ(GM)はGAFAなどのIT大手から流出した人材を取り込むため、技術部門の報酬体系をIT大手と同水準に引き上げた。独メルセデス・ベンツグループは成長市場と位置づける中国で、23年末までにソフトなどの研究・開発担当者を20年の約2倍となる2000人規模に増やす。

ただ、独フォルクスワーゲン(VW)は複数の傘下企業から人材を集めたことで混乱をまねき、高級ブランド「ポルシェ」の多目的スポーツ車(SUV)タイプのEV「マカン」の販売時期が後ろ倒しとなった例もある。

アーサー・ディ・リトル・ジャパン(東京・港)プリンシパルの岡田雅司氏は「日本の自動車メーカーは内部の人材だけでは追いつかず、今後、人材不足が開発の新たなボトルネックになる可能性がある」と話す。

一方、人材を確保しただけにとどまらず、ソフトを収益につなげる仕組み作りも重要だ。ソフトで先行する米テスラは機能の追加・更新を頻繁に提供するビジネスモデルを成功させ、トヨタに比べ約8倍の1台当たり純利益を上げたこともある。IT業界で主流の短期間で検証や改善を繰り返す手法を採り入れたことが奏功したとされる。

 

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