三井住友銀行、
なぜメインフレーム継続を決めたのか

3メガバンクCIOに聞く(中)

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Source: Nikkei Online, 2023年5月30日 5:00

三井住友フィナンシャルグループでグループCIOを務める内川淳執行役専務(写真:的野弘路)

日経コンピュータ


三井住友銀行は勘定系システムを刷新し、2025年度から順次稼働させる。同システムのオープン化に向けた検証も済ませていたが、あえてメインフレーム(大型汎用機)継続の道を選んだ。
三井住友フィナンシャルグループでグループ最高情報責任者(CIO)を務める内川淳執行役専務がその理由を語った。

──25年度以降の稼働に向けて、次世代勘定系システム開発の進捗はどうなっていますか。

「次世代勘定系システムについては、私がシステム統括部長に就いた18年に検討を始め、20年9月に機関決定しました。機関決定から2年半ほどが経過しましたが、今のところプロジェクトは順調に進捗しています。25年度のカットオーバーに向けて、ちょうど折り返し地点を無事に通過したと思っています」

「もともと次世代勘定系システムは(一般的に両立が難しいと言われる)『先進性』と『レジリエンス(強じん性・復旧力)』のあえて二兎(にと)を追う高い目標を掲げています」

「ハードウエア基盤については、NEC製の次世代メインフレーム『AKATSUKI』の導入を決めています。現行機からの性能向上に加えて、省スペースや省エネルギーを狙っています。安全性の確保という意味では、太陽フレアに伴う『中性子線』の影響で機器が誤作動を起こさないようにテストもしています」

「経済安全保障を念頭に、NECにCPU(中央演算処理装置)や各種半導体などのサプライチェーン(供給網)もある程度開示してもらっています。有事の際にリスクを回避し、製造を続けられるようにするためです。保守部材も国内の倉庫に確保しています。ここはできる限り自前主義で、NECとタッグを組んでやっています」

三井住友FGの次世代勘定系システムのポイント

メインフレームは「価格で優位」

──勘定系システムにオープン基盤を適用するのは、時期尚早なのでしょうか。

「オープン基盤は外部依存度が高いので、レジリエンスの観点からすると、(勘定系への適用には)やはり難しい面があります。何か起きたときにすぐに問題解決ができるかというと、時間がかかるでしょう。この問題をNECの次世代メインフレームであれば解決できると判断し、導入を決めました」

「もう1つの理由はコストです。従量制の料金体系にしたこともあり、メインフレームの方が価格面で優位でした。オープン基盤はOS(基本ソフト)やミドルウエアのライセンス料が結構かかります」

「一方でメインフレームはオープン基盤に比べて開発のスピードを高めようにも限界があります。そこで我々が考えたのが、勘定元帳のデータをリアルタイムでミラーリングし、オープン基盤上で動かすという仕組みです。過去にオープン基盤上で勘定系アプリケーションを動かす実証実験を手掛けていて、そこで培った技術を活用します」

「今後、新しいアプリケーションは基本的にオープン基盤上に構築していきたいと考えています。これによって、開発の迅速性や柔軟性を高められます。メインフレームと比べて開発期間を3割程度短縮し、コストも半減できると試算しています。早く安くつながるシステムを構築することで、ビジネスのスピードを高めていきたい」

主戦場は勘定系の外側に

──今後、勘定系システムの役割はどう変化していくとみていますか。

「勘定系は大量の更新処理を間違いなくミリセカンド(1000分の1秒)単位で処理する『元帳更新機能』です。表には出ず、あくまでバックエンドの仕組みです。その代わり、絶対に止まらない。そこを突き詰めていきます」

──勘定系システムに対するパブリッククラウドの適用可能性をどう考えていますか。

「勘定系システムの寿命は10年程度ですから、次の次の更改となると35年ごろになります。35年を考えたとき、世の中にはクラウドしか選択肢が残っていない可能性はあります」

「ただ、銀行のミッションはおそらく変わらないと思うので、安定性や信頼性を軸に置いて、その時のベストミックスを考えるべきでしょう。主役の交代には意外と時間がかかるのではないでしょうか」

──システム開発を手掛けるIT(情報技術)ベンダーを取り巻く事業環境も様変わりしています。

「ITベンダーは従来のビジネスの延長線上でやっていくと、非常に苦しくなるでしょう。プロジェクトマネジメント力などについてITベンダー間の格差も広がっていくと思います」

「私が入社して30年以上がたちますが、システム開発のやり方はあまり変わっていませんでした。ここにきて対話型AI(人工知能)の『ChatGPT(チャットGPT)』が登場し、簡易なプログラムはつくってくれるようになってきています。これはシステム開発を大きく変え、生産性を革命的に高める可能性があります。新しい開発のやり方を導入できるかで差が出てくると思います」

=つづく

(聞き手は日経FinTech 山端 宏実、日経コンピュータ 玉置亮太)

[日経コンピュータ 2023年5月11日号の記事を再構成]

内川淳(うちかわ・じゅん)
1988年3月東京大学理学部卒、同年4月住友銀行(現三井住友銀行)入行。2018年4月三井住友フィナンシャルグループ執行役員IT企画部長。21年4月常務執行役員。22年4月から現職。三井住友銀行取締役兼専務執行役員などを兼務。

 

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