みずほ「保守業務こそAI」
システム障害からの再起

3メガバンクCIOに聞く(下)

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Source: Nikkei Online, 2023年5月31日 5:00

みずほフィナンシャルグループでグループCIOを務める米井公治執行役(写真:的野弘路)

日経コンピュータ

みずほフィナンシャルグループ(FG)がシステム障害からの再起を急いでいる。保守面の目配りが不十分で、システム障害の連鎖を招いた。2019年に全面稼働させた新勘定系システム「MINORI(みのり)」の安定稼働やその先を見据えた手を打つ考えだ。グループ最高情報責任者(CIO)を務める米井公治執行役に詳しく聞いた。

──21年2月以降、システム障害が頻発し、金融庁から業務改善命令を受けました。改めて一連の事態をどう捉えていますか。

「19年に全面稼働させたMINORIは先進的なシステムでした。メインフレーム(大型汎用機)からオープン基盤の活用となると、(開発だけでなく)システムの保守面についても、技術的な変化を見ながら仕組みを変えていく必要があります。しかし、当社はその点が欠落していた。これが最大の反省です」

「(MINORIの稼働に向けて)システムをつくる作業を一生懸命やってきましたが、実際は保守期間のほうが長いわけです。世の中のスピードと技術が変化しているので、つくった後も非常に重要であるにもかかわらず、我々はどちらかというと『あとはメンテナンスしかない』という感覚でやってしまったことが問題でした」

「さらにMINORIを構想した頃と比べると、(スマートフォンなど)リモートチャネルからのトランザクションがはるかに増えています。従来は営業店の行員が障害に対処する形が中心でした。リモートチャネルからのトラフィックの増加を踏まえた手当てが必要だったにもかかわらず、漏れていました」

保守こそAI活用を

──保守のレベルを引き上げるために、具体的にどのような施策を講じていく方針ですか。

「システムの複雑性が高まり、技術者も足りない状況で、保守業務こそAI(人工知能)活用を進めなければ、効率は上がりません。『とりあえず集まって、みんなでやりましょう』という昔の日本のスタイルでは、もうできないということです」

「具体的には、(システムをまたいでデータを集約・分析する)統合運用監視に関するPoC(概念実証)を進めています。21年2月28日のシステム障害で発生した数万件のエラーメッセージをAIで分析し、どのシステムがどんなエラーメッセージを出しているのかを分類するという内容です」

「MINORIはコンポーネント同士が連係しているので、あるコンポーネントでエラーが発生すると、他のコンポーネントも同じようなエラーを出します。AIがこうしたメッセージを集約・分析し、想定される原因の一覧を出せれば、『犯人』を突き止めやすくなります」

「今は統合運用監視の仕組みをリアルタイムに適用するためにどうすべきかについても検討を始めています」

みずほFGの勘定系システム改革のポイント

──富士通がメインフレームの製造・販売や既存顧客向けの保守からの撤退を明らかにし、メインフレーム市場はIBM一択の様相が強まっています。メインフレームの先行きをどうみますか。

「勘定系システムの真ん中で、大量のトラフィックを処理し、障害が起きたときにきちんと説明責任を果たそうとすると、やはりメインフレームしか選択肢が残らないわけです。ただし、MINORIはコンポーネントごとにきれいに分解したつもりなので、本当にメインフレームに残るのはコアの預金の決済などだけかもしれません」

──MINORIはアプリケーションのみならず、ミドルウエアやデータベース、OS(基本ソフト)、ハードウエアといったシステム基盤もコンポーネントごとにばらつきがあります。中長期的にコンポーネントをまたいでシステム基盤を統合していく考えはありますか。

「中長期的にはそうなると思います。メインフレームは残るかもしれませんが、他の領域は(システム基盤を)分けておく必要はありませんから。ただし、『今あるソフトウエア資産をどうするのか』や『どの製品・サービスに統合するのか』は大きな問題です。そこはIT(情報技術)ベンダーの戦略や今後の技術動向を天秤(てんびん)にかけながら、タイミングを見て決めていくことになるでしょう」

メガバンクでも「共同利用」の発想を

──一部の銀行は勘定系システムを非競争領域と位置付け始めています。みずほFGは経営やシステム戦略上、MINORIをどう捉えていますか。

「やはり銀行業務の根幹は決済です。決済と顧客情報管理は、勘定系のコアとして譲れません」

「ただ、MINORIの構築段階で、使い勝手やアクセスのしやすさを考慮して、インターネットバンキングなどのチャネル系システムはMINORIの外に出しました。(顧客との接点である)チャネル系は競争領域ですが、業務処理そのものはそれほど差別化できる領域ではないでしょう」

──地方銀行では勘定系システムなどを複数の銀行で共同化する動きが一般的です。メガバンク同士でシステムを共通化していく流れは生まれるでしょうか。

「当然増えていくと思います。差別化が難しい領域では、コストを落としていくために、(他のメガバンクと)共同利用という形もあるかもしれません」

(聞き手は日経FinTech 山端宏実、日経コンピュータ 玉置亮太)

[日経コンピュータ 2023年5月11日号の記事を再構成]

米井公治(よねい・こうじ)
1985年3月東京大学経済学部卒、同年4月富士銀行(現みずほ銀行)入行。みずほフィナンシャルグループ(FG)常務執行役員やMIデジタルサービス代表取締役副社長などを経て、2021年7月にみずほFGに復帰。現在はみずほFG執行役IT・システムグループ長と、みずほ銀行副頭取執行役員業務執行統括補佐兼IT・システムグループ長などを務める。

 

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