「AI失業」米国で現実に
 1〜8月4000人、テックや通信

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Source: Nikkei Online, 2023年9月24日 2:00

米通信大手TモバイルUSは、全従業員の約7%の人員削減を発表した=AP
    【この記事のポイント】
    ・米でAIの活用を理由にした解雇が始まった
    ・代替可能な職を削減、8月までに4000人
    ・IBMは学び直しの機会設け、配置転換促す

米国企業が人工知能(AI)の活用を理由にした従業員の解雇に動いている。大手通信会社などはAIで代替できる事務部門の雇用を削減。IBMはリスキリング(学び直し)の機会を提供し、配置転換を加速する。AIが理由の人員削減は全米で今年8月までに約4000人にのぼり、「AI時代」到来に向けた人材の流動化が始まった。

米通信大手TモバイルUSは、全体の7%に当たる従業員を一時解雇する方針を決め、9月から本格的に解雇通知を始めた。解雇の理由の一つには「AI活用」が含まれていた。

「テクノロジーの進歩についていかなければならない。(会社が)成功している間に『次の章』を描かなければならない」。マイク・シーベルト最高経営責任者(CEO)は従業員向けの書簡で、AI時代に対応した雇用体系にすると強調した。米通信会社の中でもTモバイルは業績が好調な企業の一つだ。

雇用削減の対象となるのは、経理や人事など企業内でバックオフィス業務に関わる人たちだ。小売店やカスタマーサービスといった顧客に接する部門は影響を受けず、AIで代替しやすい反復業務の部門が中心となる。

米雇用調査会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスは米国企業のレイオフ調査で、このほど解雇理由の項目に「AI」を加えた。AIが理由の人員削減計画を集計すると、米企業は1〜8月に約4000人の削減を公表したという。全体の1%弱の規模だ。

「『AI解雇』を公表した企業の大半はテック企業だ」とチャレンジャー社のシニアバイスプレジデント、アンディ・チャレンジャー氏は話す。

そのうちの1社がクラウドストレージのドロップボックスだ。同社は全従業員の16%にあたる500人の人員削減を発表した。プログラムを書く仕事などがAIで代替できるとみられ、「これまでとは違うスキルや技能を持った人材が必要になる」(ドリュー・ヒューストンCEO)という。今後、人材の入れ替えを進める考えだ。


米コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーは7月に公表した調査で、生成AIの普及により、2030年までに米国の仕事(労働時間ベース)の29.5%が自動化される可能性があると指摘した。30年までに全米で1200万人の職業転換が起きる可能性があるという。

マッキンゼーによると、生成AIは「ホワイトカラー」の中でも比較的、単純な反復業務などの雇用を減らす。オフィス業務支援や営業職などは自動化で減る見込みだ。

一方、高度なスキルが必要な「知識労働」の雇用は増える。STEM(科学、技術、工学、数学)関連や医療、法律などの専門職種は生成AIで生産性が高まり、仕事の量も増えるとの分析だ。

米ピュー・リサーチ・センターは高所得で高学歴の労働者でも、反復業務に従事する場合は仕事が減る影響は免れないと分析している。働く側にとっては、より高度なスキルや技能の習得が欠かせない。米企業では従業員のリスキリング支援の動きも加速している。

代表例はIBMだ。同社はトップのアービンド・クリシュナCEOが「単純な繰り返し作業に当たるバックオフィス業務職の3割程度が今後5年間でなくなる」との見方を示した。こうした職種はそのまま雇用を減らすのではなく、従業員の配置転換を軸に対応する。今夏には世界の従業員28万人向けに生成AIの研修を実施した。

AT&Tは、社内向けに独自の生成AIを開発し、すでに幹部クラスを中心に従業員3万人に配布を完了した。システムトラブルの発生時はエンジニアが多大な時間を費やして修正ソフトを作成していたが、こうした作業は生成AIが短時間で対応できる。AT&Tは「単純作業から解放され、新しいアプリやサービスの開発に時間を割けるようになる」という。

AIが人を代替するには倫理的な問題もある。AIによる仕事の減少がどこまで進むかは予断を許さないが、その影響が労働市場に広がっていくのは間違いなさそうだ。

(ニューヨーク=清水石珠実、堀田隆文)



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