ChatGPT公開1年 はや7兆円市場、
生成AI競争激しく

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Source: Nikkei Online, 2023年11月7日 11:50

オープンAIのサム・アルトマンCEOはデモで技術進化をアピールした(米サンフランシスコ)

米主要テクノロジー企業で生成AI(人工知能)を巡る競争が本格化してきた。火付け役となった米新興オープンAIは6日、従来の16倍の長さの文書に対応する機能や価格を引き下げる戦略を打ち出した。同社が「Chat(チャット)GPT」を公開してから1年で生成AIの関連市場は7兆円近くに拡大した。各社は次世代の覇権をかけて技術力や安全性を競う。

オープンAI 企業価値13兆円

「オープンAIは今や世界で最も先進的で、最も広く使われているAIプラットフォームだ」。6日に米サンフランシスコで開いた開発者会議でサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)は胸を張った。同社にとって初開催となる舞台で発表したのが従来より性能を高めた基盤技術「GPT-4ターボ」だ。

特徴の一つが長文への対応だ。従来の16倍の300ページ以上に相当する文書を入力できる。書籍や報告書、議事録の要約などで力を発揮する見通しだ。外部の企業が大量のデータを扱えるように従量制の料金体系も見直し、文言の入力時の単価を従来の3分の1に、出力時の単価を2分の1に下げた。

オープンAIは2022年11月の個人向けのチャットGPTの公開後、より便利な機能を使える有料版や法人向けサービスなどを追加し、幅広い需要を取り込むことで「経済圏」を拡大してきた。企業価値は860億ドル(約13兆円)と半年で3倍に膨らむ見通しだ。

独調査会社スタティスタによると2023年の生成AIの世界市場は448億ドル(約6兆7000億円)に達する見込み。30年には2000億ドルを超え、日本円で30兆円規模に拡大するという。広がる需要の取り込みは、巨大テック企業にとっても重要命題となっている。

ビッグテックもAIに本腰

オープンAIや同社と提携する米マイクロソフトと真っ向からぶつかるのが米グーグルだ。チャットGPTに対抗する対話型AI「Bard(バード)」をはじめ、インターネット検索やクラウドサービスでも生成AIの搭載を急ピッチで進めてきた。生成AIの基盤となる大規模言語モデルも自前で開発する。

クラウドサービスでマイクロソフトと競合する米アマゾン・ドット・コムも生成AIのサービス拡充を急ぐ。9月にはオープンAIのライバルと目され、高度な言語能力を備えたAI「Claude(クロード)2」などを持つ米新興アンソロピックに最大40億ドルを投資すると表明した。外部と連携して基盤技術を確保し、競争力の向上を狙う。

独特の立ち位置を取るのが米メタだ。7月に大規模言語モデルの「Llama(ラマ)2」を広く利用できるようオープンソースで公開した。技術を囲い込むのではなく「開放」することで外部の開発者らと連携する。世界で40億人近いユーザーを抱える傘下のSNSのサービスなどにも生まれた成果を取り入れていく考えだ。

足元で注目を集めるのが米起業家のイーロン・マスク氏が設立したxAIだ。4日に対話型AI「Grok(グロック)」を発表し、X(旧ツイッター)の有料プラン向けなどで展開を見込む。マスク氏はグーグルやオープンAIへの対抗意識を隠さない。電気自動車(EV)大手の米テスラを含む新たな陣営の形成をもくろむ。

AI、正確性や使い勝手カギに

今後の各社の競争力を左右するのは技術の向上だ。チャットGPT公開直後は「AIが備えている知識が古い」「誤った情報を生み出す」といった課題が指摘された。現在も完全にクリアできているわけではないが、技術的な改善は着実に進んでいる。

例えば生成AIを活用したグーグルのネット検索機能はウェブ上の最新の情報に対応する。信頼性の高いサイトから回答を作成できるため、誤った情報を生成するリスクも抑えられる。企業が社内に持つ文書データなどから回答を作成する技術も登場している。

オープンAIは開発者会議で、画像認識や合成音声と組み合わせた機能の拡張も明らかにした。文字情報に加えて画像や音声への対応が進めば、AIはより汎用的で多様な作業を実行できるようになる。

もっとも、最先端の技術の追求だけが各社にとっての「解」ではない。プライバシーや著作権の侵害といった懸念を抱える生成AIは、開発企業が重い責任を負う。オープンAIを巡っても、個人データの扱いなど消費者保護への懸念から米連邦取引委員会(FTC)が調査に乗り出している。

厳しいAI規制の導入を計画する欧州連合(EU)に加え、イノベーションの促進を重視してきた米国でも10月末にバイデン大統領がAIの安全確保に向けた大統領令を発令した。安全性の確保で適切な対応を取れるかが各社の競争力を左右することになる。

(生川暁、伴正春、前田悠太)


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