Google、東京にサイバー防衛拠点
 アジア太平洋で初

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Source: Nikkei Online, 2024年2月26日 5:00

グーグルは日本にアジア太平洋地域で初となるサイバー防衛拠点を設けた=ロイター

米グーグルは7日、日本でアジア太平洋地域では同社初のサイバー防衛拠点を開設した。政府や企業、大学などと対抗策の研究や人材育成を共同で進める。官公庁や企業に対する中国や北朝鮮などからの不正アクセスへの懸念が高まっている。グーグルは日本をハブに同地域全体のサイバー防衛力を底上げする。

拠点は東京・六本木にあるグーグルのオフィス内に設けた。同社の技術者が企業の担当者などと最新の攻撃手口などを共有し、防衛技術やサイバー防衛に詳しい人材の育成を進める。

日本以外にインドやオーストラリア、韓国、東南アジア各国からも企業の技術者を招き、サイバー攻撃の対策などを研究する。グーグルは共同研究の対価は得ないがインターネットを使う際の安全性を高めれば、ネットの利用が増えると見込む。

グーグルは2022年、「デジタル未来構想」を日本で披露し、24年までに日本に計1000億円を投資すると表明している。第1弾として23年4月には千葉県印西市に、日本では同社初となるデータセンターを開設した。今後、日本でデータインフラの整備を進めるなか、サイバー防衛対策も強化し、データインフラに対する信頼感も高める。

グーグルは01年に同社初の海外法人を日本で設立し、サイバー防衛分野の研究者も多いという。グーグルで20年以上サイバー防衛分野に携わるバイスプレジデントのヘザー・アドキンス氏は「産官学の代表が集まって戦略的な政策を協議できる」と話した。

さらに「サイバーセキュリティーにはアイデアの集積と地域独自の課題への対応の両方が必要だ」と述べ、アジア太平洋地域の各国の研究機関や企業なども招いて研究する必要性を強調した。

米グーグルのサイバーセキュリティー担当バイスプレジデント、ヘザー・アドキンス氏

アジアでサイバー攻撃の懸念強まる

足元ではアジアでのサイバー攻撃の懸念は高まっている。

警察庁は23年9月に米国家安全保障局(NSA)などと連名で、中国とつながりを持つハッカー集団「ブラックテック」が日本を含む東アジアや米国で、情報窃取を目的としたサイバー攻撃をしていると警告した。

脅威分析大手の米レコーデッド・フューチャーによると、北朝鮮の政府系ハッカー集団「ラザルス」の攻撃の約8割はアジアで発生している。台湾のサイバーセキュリティー企業TeamT5も24年1月、中国系の高度で持続的な攻撃をしかける「APTグループ」が日韓や台湾、東南アジア各国を標的にしていると報告した。

イスラエルのセキュリティー企業チェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズによると、23年にランサムウエア(身代金要求型ウイルス)攻撃を受けた組織の割合はアジア太平洋地域が11%で、米国の9%、EMEA(欧州・中東・アフリカ)の10%を上回る。

日本のサイバー防衛人材、11万人不足

アジアで高まるサイバー攻撃への懸念に対応するには、サイバー防衛の専門人材の厚みを増す必要がある。日本のサイバー防衛の研究には一定の評価があるものの、日本国内ではサイバー防衛の人材不足が指摘されている。

サイバーセキュリティーの世界最大の資格団体「ISC2」が23年11月に公表した調査では、日本の人材数は必要数より11万人少なく、ギャップは22年からほぼ倍増した。

米ハーバード大ベルファー科学国際問題センターが各国の法律や技術などの公開情報から推計する「国家サイバー・パワー・インデックス」調査では、日本の順位は20年の9位から22年に16位に下がった

日本政府は22年末に決めた国家安全保障戦略で、サイバー防衛の対応能力を「欧米主要国と同等以上に向上させる」と掲げる。自衛隊などサイバー防衛の専門要員を27年度までに現在の4倍超の4000人に、基礎知識を持つ自衛官を2万人ほどに増やす計画だ。

23年12月にはNTTNEC、政府幹部経験者らが参加するサイバー防衛人材の育成団体が発足した。慶応大SFC研究所の小宮山功一朗上席所員は「多くの国際調査で共通する日本の課題は、官民のサイバー防衛人材の確保と育成の不足だ」と指摘する。

グーグルが収集する脅威データを基に多国間の情報連携を構築できれば、国内の人材育成に加え、インテリジェンス能力の向上も期待できる。

グーグルのアドキンス氏は「人工知能(AI)の活用が進み、サイバー攻撃は高度化している。消費者が日常生活で安全にテクノロジーを使うため、長年、サイバー攻撃に対応してきたグーグルの知見を生かしてほしい」とした。

(鈴木卓郎、サイバーセキュリティーエディター 岩沢明信)



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