Microsoft、生成AI自社開発
 通信無しでスマホで動作

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Source: Nikkei Online, 2024年4月23日 17:53

AIをPCに組み込んで高速で処理できるようにする(ワシントン州のマイクロソフト本社)

【シリコンバレー=渡辺直樹】米マイクロソフトは新型の生成AI(人工知能)を開発した。通信がつながらなくてもスマートフォン単体で使える。提携する米新興企業オープンAIの「Chat(チャット)GPT」と併せて提供し、品ぞろえを強化する。利用者にとって、用途に応じて生成AIの選択肢が増えてきた。

今回の「Phi(ファイ)―3」は自社開発した。マイクロソフトは提携先のオープンAIに約2兆円を投じ、チャットGPTの技術をビジネスソフトに取り入れてきた。今後は自社でのAI開発も本格化する。用途に応じて生成AIを使い分けるケースが増えていることに対応する。

ファイは高価な画像処理半導体(GPU)がなくても、スマホに入ったCPU(中央演算処理装置)を使って動かすことができる。チャットGPTより高速で利用者からの質問に回答し、開発や導入コストも抑えた。技術は外部に無償提供し、改良する場合には一部有料にする。

通常、生成AIは大量の計算処理が必要で、巨大なデータセンターを使って動かしている。通信がつながらなくても端末単体で動作するため、スマホやパソコンだけでなく車、監視カメラ、工場や農場のAIを搭載したセンサーといった様々な用途を想定している。通信環境の悪い国でもAIが使えるようになる。

ファイの開発にあたり、マイクロソフトはAIを活用した。データを学習する際、チャットGPTの技術を使って内容を精査することで効率的に知識を学んだ。

ファイはAIの性能の指標となる「パラメーター数」は38億、70億、140億の3種類。パラメーター数ではチャットGPTの旧技術である「GPT-3」の最大12分の1以下にとどまる。効率的な学習などで回答精度を高め、数値上では同レベルのAIの2〜10倍の性能を実現したという。

巧みに言語を操る生成AIは、パラメーター数と学習するデータ、計算資源を巨大にすればするほど強力なモデルをつくることができるという理論がある。ただ強力になれば開発費や利用コスト、電力が膨大になる。マイクロソフトは高速で使いやすいAIを開発することで、より幅広い用途に応えられるようにした。


生成AIはチャットGPTの登場から約1年5カ月がたち、性能競争だけでなく、様々な性能のAIを使い分けるケースが一般的になってきた。

例えば映画1本、本1冊を丸ごと要約できる高性能で万能型のAIが登場する一方で、科学論文に詳しいAIや、ビジネス文書の処理に優れるAIといった機能特化型のAIもある。利用者にとっては用途やコストに応じて選択できるメリットがある。

AIを開発するテクノロジー企業はAIの高性能化を進める一方で、提供するサービスの幅を広げている。競合では米メタが18日に高速で使いやすくしたAI「Llama(ラマ)3」を発表した。米グーグルや米新興企業のアンソロピックも性能に応じて「大中小」の3つのAIを公開している。

AI開発企業は改良のスピードを速めるため、外部の開発者が無償で技術を使える「オープンソース」としてサービスを提供する企業も増えている。メタや米起業家のイーロン・マスク氏が手がける新会社が技術を外部開放する戦略を進める。

グーグルもAIは自社開発を進める一方で一部技術を開放している。マイクロソフトも一部をオープン型にすることで普及を優先する方針だ。

マイクロソフトはオープンAIとの提携を核にAI戦略をリードしてきた。時価総額は約3兆ドル(約460兆円)に達し、米アップルを上回って世界首位となった。

AIを動かす自社半導体の開発に乗り出し、グーグルディープマインドの元技術者を新興企業から引き抜いて開発トップに据えた。仏新興のミストラルAIとも提携するなど、全方位で事業強化を進めている。



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