エヌビディア、性能30倍に 追うAMD、端末搭載狙う
Source: Nikkei Online, 2024年7月22日 2:00
生成AI(人工知能)向けの半導体で米エヌビディアの躍進が続いている。AIの計算に使う画像処理半導体(GPU)で独走し世界シェアの9割超を握る。次世代品の開発でエヌビディアの牙城に挑むのが米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)だ。新シリーズ「競合対決」では、注目業界をけん引するライバルの比較を通し、市場の行方を読み解く。
「10億ドル(約1600億円)のデータセンターに5億ドル分のGPUを追加すればAI工場になる」。エヌビディアの最高経営責任者(CEO)、ジェンスン・ファン氏は6月、台湾で開催された展示会で熱弁をふるった。
「我々はAIのジェネレーター(生成器)を発明した。新たな産業革命だ」と強調し、「AIは学習できることはすべて生成できる」と述べた。AI工場が新たな素材を生み出し、大災害を予測し、難病を克服する薬を開発する世界を描く。
GPUはゲームの映像を滑らかに映す用途で開発された。大量の計算を同時にこなせるため、AIに応用されるようになった。生成AIは情報を生み出すために膨大なデータを使う。生成AI「GPT-3」の学習は約3140垓(がい、1垓は1兆の1億倍)回の計算が必要だった。
エヌビディアが23年に市場投入したGPU「H100」はトランジスタ(半導体素子)を800億個集積する。1基500万円超と高額だが、米グーグルや米メタなどテック巨人を中心に争奪戦が繰り広げられている。
AMDがエヌビディアの対抗馬として名乗り出る。同社は1969年に創業し、パソコンやサーバー向けのCPU(中央演算処理装置)でインテルとシェアを競ってきた。06年にカナダのATIテクノロジーズを買収してGPUに参入。ゲーム向けなどで事業を展開していた。
23年に生成AI向けGPU「MI300」を投入した。トランジスタ数は1530億個と、技術面では引けをとらない。リサ・スーCEOは「AMD史上最も急成長した製品となった」と強調する。
エヌビディアは24年中に現世代の30倍の能力を持つGPUを実用化する。AMDも25年に35倍の製品を発売する予定だ。AI社会の「頭脳」を巡る開発争いは今後も、この2社を中心に展開していく。
競争の軸はハード面だけではない。GPUはAIが正確に動くようにシステムに組み込む必要があり、システム開発に使うソフトウエアへの対応もカギを握る。
エヌビディアが06年に提供を始めた開発ツール「CUDA」は、10年代からAI開発に使われてきた。23年の総ダウンロード数は4500万回、開発者は400万人。AI開発を手掛ける国内新興企業は「性能とソフトが充実し、AI開発における事実上の標準となっている」と指摘する。
AMDも開発ツール「ROCm」で使えるソフトウエアの拡充を急ぐ。過去1年にAI企業の買収などに1億2500万ドル以上を投じた。スーCEOは6月、マイクロソフトやメタが同社のGPUを採用したと明かした。
エヌビディアの牙城はなお強固だ。英調査会社オムディアによると、AI用サーバーに使われるGPUのシェアは96%で、AMDは3%。開発現場のエンジニアは「エヌビディアから切り替える理由がない」と話す。
ただ、今後も勢力図が変わらないとは言い切れない。AIの競争が大量のデータを学習して大規模言語モデル(LLM)を構築する段階から、AIモデルを工場や営業現場などで使うシステム開発に移るためだ。電子情報技術産業協会(JEITA)によると、30年の生成AI市場は活用分野が97%を占め、LLMの構築は3%にとどまる。
半導体に求められる性能も変化する。情報を出力するときの計算量は学習に比べ少なない。AIを用途に合わせて効率よく動かすために、コンピューターの司令塔の役割を担うCPUの重要性が増す。
AMDはパソコンやスーパーコンピューター向けでCPUの技術に強みを持つ。CPUをGPUと組み合わせることで、パソコンなどの端末で動くAIの需要も狙う。エヌビディアは英半導体設計のアームの技術を使って独自のCPUを開発している。
オムディアの杉山和弘氏は「AIが動く場所はデータセンターからスマートフォンやパソコンなどに分散する」と指摘する。技術の転換点は主要プレイヤーが大きく変わるきっかけにもなる。インテルはパソコン向けCPU市場を席巻する一方で、GPU開発で出遅れた。あらゆる機器や場所にAIが搭載される時代をにらみ、半導体の覇権争いが激しくなる。(江口良輔)
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