変わらぬ政官の聖域 民力生かさず政策鈍く

検証コロナ 危うい統治(4)

お金を配ると決めたら、すぐ渡す。新型コロナウイルスへの対応は一刻を争い、困っている個人への給付に遅れは許されない。それが世界の常識だ。

韓国では5月11日に「緊急災難支援金」の給付が始まった。支給額は単身世帯で約4万円。ネット申請ではカード会社を使い、2日以内にクレジットカードにポイント付与する仕組みを整えた。2週間あまりで97%の世帯に配る速攻ぶりだ。一方、1人10万円配る日本の特別定額給付金。6月5日時点の給付済み世帯は全体の28%にとどまる。

大型経済対策の編成を巡る日米の足取りを追ってみた。ともに検討し始めたのは3月上旬。米国では3月27日に現金給付を含む経済対策が議会を通過し、成立した。日本はその翌28日、安倍晋三首相が正式に予算編成を指示。ここから予算成立まではさらに1カ月、4月30日までかかった。

政府・与党が個人への現金給付額を公言したのは4月3日。誰にいくら配るかで時間を浪費した。一律給付に待ったをかけたのは財務省。「準備に3カ月かかる」。政府は減収世帯に30万円を配る案を打ち出したが、与党の反発で一律10万円への転換を強いられた。

決めたあとも遅い。日本ではマイナンバー制度が普及しておらず、個人の申請がないとお金を配れない。米国は政府が個人の納税記録をもとに、登録された銀行口座に自動的にお金を振り込んだ。申請も不要。申請から支給まで時間がかかるのは、納税記録や口座のない人たちだった。

各国は民間の知恵も取り込み、迅速に動いた。

例えばスイス。無審査で数時間のうちに振り込む中小企業向け融資は3月26日からの1週間で7万件の利用があった。政府に提言したのはクレディ・スイスのトマス・ゴットシュタイン最高経営責任者(CEO)だった。米国も保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」の関係者が減税の提案に関わったとされる。

世界は日本を、政策に民の知恵を生かさない国とみる。米国の国際NGOが4月にまとめた世界の「財政公開性調査」は、日本は予算を作る際の情報公開が不徹底で、民間の関与が足りないと指摘した。官は市民やNPOなどの意見を幅広く聞くべきで、そうでなければ多様なアイデアを政策に生かせないとの主張だ。

コロナ危機では、経済対策に盛り込んだ政策のうち、民間への不透明な業務委託に批判が集まっている。中小事業者らを支援する持続化給付金や旅行需要の回復を狙う「Go Toキャンペーン」などは、どの組織にどんな仕事を任せるか見えにくい。予算が効率的に使われておらず、責任の所在も曖昧との指摘が出ている。

政と官は民の知恵も借り、機動的に政策を作り上げる。その際、透明なルールのもとで民間に競って知恵を出してもらい、政策実行のスピードを上げる。そして想定を上回る効果を狙う。そんな好循環を生む仕組みが大切だ。自ら聖域を作り、閉じた議論に終始しているうちは、危機の出口にたどりつけない。