米中対話再開、重なる思惑 台湾問題は平行線


Nikkei Online, 2023年6月19日 22:53

中国の習近平国家主席㊨はブリンケン米国務長官と面会した(19日、北京)=ロイター

【北京=坂口幸裕、田島如生】米国と中国は閣僚の相互往来を含む高官対話を再開する方向にカジを切った。中国とロシアの二正面展開を避けたい米国、封じ込めを打開して経済回復を急ぎたい中国――。偶発的な軍事衝突を避けたい思惑で一致しつつ、国内事情を抱える両国の駆け引きは続く。

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「台湾をめぐる危機が起これば全世界に文字通り影響を及ぼす経済危機につながる可能性がある」。米国務長官として5年ぶりに訪中したブリンケン氏は19日の記者会見で、中国による台湾への圧力に重ねて懸念を示した。

両国は対話の維持で一致したが、台湾問題を巡る溝は埋まらなかった。習近平(シー・ジンピン)国家主席はブリンケン氏との面会で「中国の正当な権利と利益を損なってはいけない」と伝えた。習指導部が事実上の公約に位置づける台湾統一を米国が阻まないようクギを刺したとみられる。

米政府はバイデン政権が発足した2021年1月以降で最高位となる国務長官の訪中日程から逆算して外交を組み立てた。アジアの安定を重視し、日本やフィリピンなど同盟国との安全保障協力の強化をテコに対話に応じるよう中国に圧力をかける狙いがあった。

米ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)はブリンケン氏の訪中に先立ち来日。16日に秋葉剛男国家安保局長とフィリピンのアニョ国家安保担当顧問と協議し、同盟に基づく3カ国連携を深めると合意した。

米国は親米政権になったフィリピンとの関係を一気に深めた。4月には台湾に近いフィリピンのルソン島を含む拠点の使用を認めると合意。6月1日からは日本の海上保安庁と米比の沿岸警備隊が南シナ海で初の合同訓練を始めた。

日米韓の高官も15日に東京で東シナ・南シナ海での安保協力などを話し合った。一連の動きから浮かび上がるのは中国に軍事的な挑発の抑制を迫る抑止力の輪を広げようとする米国の思惑だ。ウクライナに巨額の軍事支援を続けるさなかに、米軍が中国への対処に迫られるリスクを抑えようと腐心する。

米連邦議会は超党派で対中強硬策を相次ぎ打ち出す。24年11月に大統領選を控える米国で中国に配慮する余地は一段と狭まる。その前に中国の高官と対話できるパイプを築きたかった。

中国も米国との関係悪化は本意でない。習氏はブリンケン氏との面会で「両国の間にある共通の利益を重視すべきだ。その成功はお互いにとって脅威ではなくチャンスだ」と指摘した。「中国は常に健全で安定した中米関係を望む」とも語った。

「核心的利益」に位置づける台湾問題などで歩み寄りは難しいものの、低迷する経済のテコ入れに日米欧とのつながりは欠かせない。中国の王文濤商務相は5月下旬に訪米し、レモンド商務長官らと貿易や投資の協力について話し合った。

ブリンケン氏の訪中をきっかけに米中の閣僚往来に弾みをつけ、次は秦氏の訪米を探る。米国のイエレン財務長官やレモンド氏が近く訪中する案も取り沙汰される。

中国は米国主導の「封じ込め」を警戒する。22年10月に半導体関連の対中輸出規制に乗り出し、日本やオランダも同調した。ハイテク製品の輸出を禁じる中国企業の対象も拡大しており、中国国内の技術開発に影響が及んでいるとの見方がある。

西側諸国の結束に風穴を開けるため重視するのが欧州だ。李強(リー・チャン)首相は18~23日にドイツとフランスを訪問する。ドイツでは閣僚らによる政府間協議に出席し、中独の気候変動や経済協力などを話し合う。

台湾問題を巡ってフランスのマクロン大統領は4月、米国と中国のどちらにも「追随すべきでない」と発言した。あらわになった米欧の隙を突こうともくろむ。

ダニエル・ラッセル元米国務次官補は「米中が優先すべきは関係の安定だ」と語る。高官レベルの意思疎通を活発化させ、制御不能になりかねない軍事衝突のリスクを軽減させたい米国と、自国への技術移転の制限や台湾支援の動きの拡大を阻みたい中国の思いが重なるとみる。

対話は米中対立の解消につながらないと指摘しつつ「ブリンケン氏の訪中は米中が冷静な議論に移行するというシグナルを送るきっかけになるかもしれない」と話す。

Link to 2023/6/21「習氏の「威光」、席配置で演出 米国に軍事はゼロ回答」


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