「再生エネ後進国」日本で太陽光余る 出力制御頻発も

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Nikkei Online, 2021年5月28日 11:00


太陽光発電では季節や地域によって
供給が需要を上回るようになった

再生可能エネルギーの導入が世界的にみて遅れているとされる日本。ところが太陽光発電では季節や地域によって供給が需要を上回り、出力制御に追い込まれるケースも出てきた。電気は需給がバランスしなければ周波数が乱れ、停電につながる。再生エネを無駄にしないためにも、蓄電池や送電網の整備が急務となる。

連休中、太陽光比率高まる

ゴールデンウイーク(GW)中の5月4日、午前11時台に沖縄を除く日本全国の電力需要の半分以上が太陽光でまかなわれた。大手電力の送配電事業者9社の電力需要量と太陽光の出力を調べて、こんなことがわかった。

東京電力ホールディングス(HD)の域内では、同日午前11時台に電力に占める太陽光の発電出力の比率が最も高まった。同社の域内電力需要の2519万キロワットに対し、約52%にあたる1305万キロワットが太陽光でまかなわれた。同じ時間帯で中部電力も太陽光の比率が約78%に達した。

GW期間中は、長期休暇で企業活動が休止することに加え、冷暖房などの使用が少なく電力需要は低下する。四国電力では、5月3日午前11時台の太陽光発電の出力が232万キロワットとなり、同時間帯の電力需要の229万キロワットを上回った。四国電力の長井啓介社長は「このままだと出力抑制が必要になり、資源の無駄遣いになる。蓄電池の導入が必要だがコスト次第だ」と話す。

四国電力は揚水発電を稼働させるなどの措置をとり、太陽光の出力制御にはまだ踏み切っていない。揚水発電とは上部と下部に水をためる池をつくり、2つの池の間に発電所をつくる水力発電所のことだ。電力が余っているときは下部から上部に水をくみ上げることで電力を消費。反対に電力が不足するときは上部から下部に水を流すことで発電する仕組みで、電力を調整する「蓄電池」のような役割を果たす。再生エネを調節するには便利な仕組みだが、設備が大きく、そう簡単に増やすことはできない。


揚水発電所のダム(佐賀県唐津市)

電気は需要と供給が一致しなければ周波数が乱れ、大規模な停電につながる恐れがある。揚水発電による調整や大型蓄電池などへの蓄電が間に合わないほど太陽光が発電する場合は、泣く泣く出力制御が必要となる。特に太陽光の電源が多く立地する地方部では、電力需要や送電網の空き容量が限られ需給バランスが崩れやすい。離島を除くと九州電力が2018年に全国で初めて出力制御に踏み切った。

九州では「接続超過」

九州では12年の固定価格買い取り制度(FIT)の導入後に太陽光発電が急増。今年3月末時点で接続可能量の817万キロワットに対し200万キロワット程度超過している。18年度には26回、19年度に74回、20年度に60回の出力制御を実施した。需要が減る春と秋に起きやすい。出力制御が増えると、再生エネ事業者は売電収入が減り痛手となる。

東北電力は4~5月の週末にかけ計10回程度、出力制御を実施する可能性があるとしていた。4月25日には人為的なミスによって図らずも出力制御を実施してしまった。直前に「出力制御なし」の通知を事業者に送るべきところ、配信されなかったことが原因だ。出力制御を実施したのは、九州電力に次いで2社目となる。

北海道電力も4月下旬、休暇で電力需要が減るGW期間には出力制御を実施せざるを得ない可能性があるとしていた。北電は①大型蓄電池や揚水発電所の稼働②連系線を通じて余った電気を本州に送電――といった対応で出力制御を回避した。

蓄電池や送電網整備が課題

天候に左右される再生エネが増えれば、全体の電力需給はより不安定になる。再生エネの適地は人口減が急速に進む地方部に集中しており、蓄電池のコストダウンや地域間を結んで電力を融通し合う送電網の整備が急務だ。

経済産業省は産業用の蓄電池で、30年度に1キロワット時当たり6万円程度まで下げる目標を設定する。三菱総合研究所によれば、足元のコストは同24万円程度。製造や建設にかかるコストを下げる必要がある。

北電の藤井裕社長は「電気を使って水素を生成し、サプライチェーンに提供する仕組み作りを目指しており、将来的には出力制御せずにすむようになる」と語る。余った再生エネを水素に変換して貯蔵する。こんな取り組みも、太陽光の出力が増える中で実現が急がれる。

(柘植衛、向野崚)