Nikkei Online, 2021年5月29日 22:00
政府が 6月にまとめる成長戦略の原案がわかった。2030年までに燃料電池車の燃料を補給する水素ステーションを1000基整備する目標を新たに掲げる。現在の6倍に増やし、30年代半ばまでに乗用車の新車販売が全て電動車に切り替わるよう促す。先端半導体の工場を誘致するため「他国に匹敵する規模」の支援措置を講じるとも記した。
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新たな成長戦略は、50年までの温暖化ガス排出の実質ゼロに向けたグリーン戦略やサプライチェーン(供給網)強化などを今後の日本経済の成長の柱に位置づけ、「経済安全保障」にも目配りする内容だ。
電気自動車(EV)やハイブリッド車、燃料電池車など電動車の普及に向けて「遅くとも30年までにガソリン車並みの経済性・利便性を実現する」と明記。水素ステーションは現在160基程度にとどまる。これまで掲げてきた「25年度に320基」の目標から大幅に上積みする。
EV向けの急速充電器も増やし電動車の利便性を高める。経済性がガソリン車に追いつくまでは購入時の補助金などで普及を後押しする。
いずれも「脱炭素」の流れに沿って産業構造の転換を促すのが狙いで、エンジン部品メーカーが電動部品の製造を始めたりガソリンスタンドがEVステーションに衣替えしたりするのを支援する。裾野の広い自動車分野は供給網全体の脱炭素化に向けて「包括的な支援策を実施する」と強調した。
経済安全保障の観点で重要な半導体や電池などの産業基盤の強化も掲げる。半導体は世界的に工場の誘致合戦になっている。経済産業省によると、研究開発や生産拠点の強化に米国は4兆円規模、中国は10兆円規模の政策支援をしている。
日本の支援策には総額2000億円の基金などがあるが、先端半導体に関しては大幅に積み増して立地を促す方針を明記した。自動車産業の競争力を左右する電池の研究拠点や工場の整備も促す。「一定以上の規模を有する電池や部品などの大規模生産拠点の立地を図る」と記した。
新型コロナワクチンの反省を踏まえ、国産ワクチンの研究開発拠点の強化、薬事承認プロセスの迅速化なども盛り込んだ。コロナ禍の長期化で飲食や宿泊といった対面型のサービス業は苦境にある。こうした業種の事業継続や業態転換を支援していくことも明記した。