Nikkei Online, 2021年6月5日 2:00
2014年に青色発光ダイオード(LED)による照明革命でノーベル物理学賞を受賞した天野浩・名古屋大教授が、今度は窒化ガリウムによる脱炭素革命にまい進する。文部科学省、内閣府、環境省の3つのプロジェクトを使い、温暖化ガス排出量を実質ゼロにする未来の「カーボンニュートラル」時代を支える新材料実現を目指す。
名古屋大の未来材料研究、通称「天野プロジェクト」は、茅陽一・東大名誉教授が考案した理論「茅の恒等式」をベースとする。二酸化炭素の総排出量を「人口」「1人あたりの生産性」「製品効率」「1次エネルギー」という4つの変数を掛け合わせてはじき出すのが特徴だ。
50年には日本の人口は今の74%に減り、生産性は1.5倍になると推定する。式に当てはめると、実質ゼロには「日本で使われる製品からの排出量を35%まで減らし、1次エネルギーに占める化石燃料の割合を10%に下げる必要がある。この2つの削減に窒化ガリウムは大いに役立つ」と天野教授はいう。
「製品効率」の向上で最も注力するのが電気自動車(EV)への応用だ。リチウムイオン電池を搭載した場合、モーターを動かすには直流の電気をインバーターで交流に変える必要がある。このインバーターのトランジスタに窒化ガリウムを使うとエネルギー使用量が大幅に減る。19年には大阪大やパナソニックなどと試作した究極の省エネ型EVを東京モーターショーで公開し、大きな話題となった。
「1次エネルギー」では、今後、主電源となる太陽光や洋上風力といった再生可能エネルギーを、無駄なく効率的にいかす次世代の電力供給・蓄電システムに、窒化ガリウムを使ったデバイスが重要な役割を果たす。
成否は高品質な窒化ガリウムの結晶を低コストで量産できる技術を確立できるかどうかにかかる。現段階では6インチウエハーを作るのに100万円程度かかる。これを1万円レベルまで下げないと普及は難しい。
「大学の成果は社会変革につながってこそ。脱炭素に対する産業界の雰囲気も一気に変わった。投資を呼び込めるような窒化ガリウムを30年までには実現する」と天野教授は意気込む。
(編集委員 矢野寿彦)