「脱ごみ社会」自治体挑む
 長野・川上村、生ごみゼロ

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Nikkei Online, 2021年7月10日 5:10更新

全国のごみ処理費は年間2兆円を超える。増加傾向にあり10年前に比べ1割増えた。人口減の進展に伴う担い手不足の懸念も強まっている。財政も厳しさを増す中、持続可能な地域を築くためには排出削減への戦略的な施策が欠かせない。企業が環境意識を高める中、先進的に取り組む自治体では新たな産業を呼び込むなど、活性化にも寄与し始めた。


徳島県上勝町は20年春、町内唯一のごみ収集所を建て替え、
ゼロ・ウェイストセンターを開業した

環境省が3月にまとめた一般廃棄物処理の実態調査(2019年度)によると、1人1日あたりの排出量は918グラム。都道府県で最少は長野県で816グラムだった。京都府(836グラム)、滋賀県(837グラム)が続く。

長野県は800グラム以下に減少させる目標「チャレンジ800」を策定。啓発を進め、14年度以降、日本一を維持する。全77市町村のうち60がごみ袋を有料化。記名式に踏み込んだ自治体も同じく60あった。自治体のごみ問題に詳しい山谷修作東洋大名誉教授は「有料化や記名式はコストの可視化や排出責任の明確化につながり減量への動機づけになる」と指摘する。

全国自治体で一番排出量が少ない川上村(有料・記名、294グラム)は、可燃ごみの4割を占める生ごみの回収を一切せず各家庭で堆肥化する。

生ごみは水分含有量でも自治体を悩ませる。そのままでは焼却炉の温度を下げてしまい、ダイオキシン発生を誘発。一方で温度を維持しようとすると、燃料費がかさむ。

財政難から3基の焼却炉すべてを耐用年数を超えて運用する上田市(有料・記名、770グラム)は、16年から自己処理を促す「生ごみ出しません袋」の無料配布を始めた。畑がない家にもメリットを直接感じてもらおうと、乾燥生ごみ1キログラムにつき1ポイントとする事業も開始。5ポイント集めれば市内のJA直売所で500円分の野菜などに交換できる。

2位の京都府では、京都大と連携して発生抑制に取り組む京都市(836グラム)がけん引する。1980年から発生場所を特定する「細組成調査」を開始。市はピーク時の年間排出量82万トン(00年度、1人あたり排出量は1608グラム)を半減する目標も策定した。18年度に目標を達成し、処理費は4割減の224億円(20年度)にまで減った。

減量のメリットは処理に費用がかかるケースが多い事業者にとっても大きい。東京都多摩市は15年「利益率5%の事業者が50万円のもうけを出すには1000万円の売り上げ増が必要。処理(持ち込みの場合10キログラム350円)に年500万円を費やすなら、ごみ1割減でも50万円の経費削減となり同等の効果を生む」と具体例を挙げて可視化。事業所1人あたり排出量の2割減につなげた。

環境負荷低減が世界的な要請となる中、取り組みは活性化にも直結する。全国に先駆け、焼却・埋め立てごみをゼロにする宣言を行った徳島県上勝町には、町の人口(1500人)を超える約2000人が例年視察などに訪れる。調査時点でもなお539グラム(市町村で30位)を排出しているが、住民自ら45品目に分別し、資源化を進めることで年間処理費を6割減程度まで抑制した。

焼却炉は00年、ダイオキシン類対策特別措置法の基準を満たさなかったことを機に廃止。環境都市としてブランド力が高まり、15年に町外事業者がビール製造場を新設した。キャンプ場などレジャー施設も増えている。

(瀬口蔵弘、山本公彦)