Nikkei Online, 2021年7月22日 5:04更新
経済産業省が21日公表した新しいエネルギー基本計画の原案は2030年度の総発電量のうち再生可能エネルギーで36~38%賄うと示した。一部の拡大策はなお不明確で、実現可能性は見通せない。再生エネを有効活用するのに必要な蓄電池の整備には少なくとも1兆円超の投資が必要になる。消費地に電気を送る送電網も脆弱で、主力電源化を目指す再生エネを生かすには環境整備が課題となる。
国内の温暖化ガスの排出量は電力部門が4割を占め、電力供給を何で賄うかを見直す。新計画では30年度の比率を①再生エネで36~38%(現行目標は22~24%)②原子力で20~22%(現行目標維持)③温暖化ガスを排出しない水素やアンモニアによる発電で1%(現行はゼロ)④火力で41%(同56%)と提示した。
再生エネや原子力など脱炭素の電源は合計で59%になる。再生エネの内訳は太陽光が15%、風力で6%、水力で10%などを想定。原案には「再生エネ最優先の原則で導入を促す」と明記し30年度の発電量を3300億~3500億キロワット時に引き上げる。19年度の2倍近くの水準に増やす。
「リアリティーに欠け、大きな禍根を残すのではないか。(電源構成案に)反対する。率直にいって帳尻合わせだ」。原案が示された21日の調査会では、エネルギー政策に詳しい橘川武郎国際大教授らから慎重な意見が出た。
欧州では洋上風力の発電量が増えるが、環境への影響調査などに8年程度の時間がかかり、日本での本格導入は30年度以降となる。当面は太陽光に頼らざるを得ない。ただ、国土面積あたりの日本の太陽光の導入量は既に主要国の中で最大で、パネルの置き場所は限られる。主役になりきれるかは見通せない。
再生エネを有効活用する対策も必要になる。天候によって発電量が左右されるため現在は火力発電でその分を調整しているが、排出削減には蓄電池の利用が欠かせない。
基本計画では家庭や工場などで30年に累計2400万キロワット時の蓄電池の導入を見込む。19年度までの累計の導入量の約10倍に相当する。経産省は産業用の蓄電池の1キロワット時あたりのコストが19年度の24万円から30年度に6万円に下がるとの目標を設定。家庭向けは19万円弱から7万円程度に下がるとみる。
導入を見込む蓄電池に必要な投資額をもっとも安い価格で試算すると、少なくとも1.3兆円かかる。価格が下がらなければ数兆円に膨らみかねない。補助金などで支援するとしても企業や消費者が本格的に取り組まないと実現しない。
再生エネの大量導入には送電網の増強も不可欠だ。原案には洋上風力に適した地域から電気を使う場所に運ぶための「海底の長距離送電線の検討」を盛り込んだ。
九州や北海道で太陽光の発電が増えるが、大手電力ごとに送電網がわかれ、それをつなぐ地域間送電網が不十分なためだ。九州では停電などが起きないよう太陽光による発電を抑える「出力制御」も頻発している。
電力広域的運営推進機関(広域機関)は、地域間送電網の容量を最大1600万キロワット分増強する必要があるとみる。現在から7割増える計算だ。50年に洋上風力発電を4500万キロワット導入する想定で、必要な投資額は最大4.8兆円になる。
従来の発電手法も2030年度計画の達成はハードルが高い。日本は19年度の発電量の32%を石炭火力で賄った。二酸化炭素(CO2)排出量が多いため古くて効率の悪い石炭火力の休廃止を進めているが、30年度も19%を石炭に頼る。
フランスは22年、英国は24年までに国内の石炭火力を廃止する目標を掲げている。国際社会から廃止を求める声は強まっており、想定通り使い続けられるかは見通せない部分もある。
現行目標を維持した原発も先行きが不透明だ。30年度は電力会社から稼働に向けた申請があった27基すべてのフル稼働が必要になる。事故後に稼働したのは10基にとどまる。稼働には原発が立地する自治体の同意が必要で、例えば不祥事が相次ぐ東京電力ホールディングス柏崎刈羽原発は同意のめどが立っていない。
東大の高村ゆかり教授は「再生エネの導入拡大よりも原子力の20~22%の方がハードルは高いのではないか」と話す。原案では原発を巡り「必要な規模を持続的に活用する」と記した。一方で「可能な限り依存度を低減」との文言は残した。
30年代に入ると法定上限年数の60年運転に達する原発も出てくる。原発の新増設や建て替えを進める方針も明記しなかった。運転年数を延ばすといった対応も必要になるとみられるが、踏み込んでいない。50年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロにするための長期戦略は不明瞭だ。