Nikkei Online, 2021年11月29日 5:00
「すぐに青森県に行ってくれませんか」。10月、経済産業相に就任した直後の萩生田光一氏に経産官僚が直談判した。9月の自民党の総裁選で河野太郎氏が使用済み核燃料を再利用する「核燃料サイクル」の中止に言及し、関連施設を抱える地域に動揺が広がっていた。
萩生田氏は衆院選が終わるとさっそく足を運んだ。11月8日、県庁に三村申吾知事を訪ねて「原子力政策の中核の一つであり、着実に進めていく」とサイクル堅持を表明した。経産省幹部は「萩生田さんは現実路線」と胸をなで下ろした。
原子力行政は岸田文雄政権で風向きが変わる兆しがある。原発に慎重な前規制改革相の河野太郎氏や前環境相の小泉進次郎氏は閣外に出た。
脱炭素の電源として原発の活用を改めて探る世界的な流れもある。注目は「小型モジュール炉(SMR)」と呼ぶ新型炉だ。欧米では2030年前後の導入計画が進む。出力は最大30万キロワット程度で、100万キロワット級の従来型に比べ規模が小さい。経産省内には「大きな配管が不要で、自動冷却もできる。安全性は別次元」との見方がある。
萩生田氏も期待を寄せる一人だ。その姿勢が垣間見えたのは、エネルギー基本計画を閣議決定する1週間前の10月15日の記者会見だった。
「現時点で原発の新増設、リプレース(建て替え)は想定していない」。ここまでは政府の公式見解をたどった。小型炉については踏み込んでみせた。「SMRを含め、新たな安全技術の研究は絶え間なく行っており、これからも支援は必要だ」。事務方が用意した資料にはない発言に、省内でも「半歩前進」との声が上がった。
水面下で経産省は電力会社や原発メーカーに「どういうものを作りたいか、整理して考えてほしい」と打診もしている。 もちろん原発回帰で一枚岩とまではいかず、慎重論は根強い。 東京電力柏崎刈羽原発で発覚したテロ対策の不備など不祥事も続く。 ようやくの「半歩」の先は依然見通せないままだ。