物言うはESG投資家 日本でも提案、増す存在感

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    Nikkei Online, 2022年5月6日 21:24

6月の株主総会シーズンが近づき、今年も「物言う株主」の提案が話題に上り始めた。増配など短期的な株主還元策もなお活発だが、気候変動対応はじめESG(環境・社会・企業統治)に沿った提案も目立つ。株主還元を求める声に比べ株価への寄与は限られてきたが、企業の変革を引き出した提案も多い。軽視はESGマネーの影響力を見誤ることになる。


「脱炭素社会に向け化石燃料から早期に撤退し、企業価値の向上を図ることを期待する」。4月13日、オーストラリアや日本国内の非政府組織(NGO)は三井住友フィナンシャルグループ三菱商事など4社に対し、温暖化ガス排出量を実質ゼロにするまでの道筋を定め、開示するよう求める株主提案を出すと発表した。メガバンクに気候変動への対応を求める株主提案は3年連続だ。


資産運用会社の間でも、ESG対応を求めて議決権行使基準を改定する事例が相次ぐ。英最大級の運用会社リーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメント(LGIM)は2022年から、役員報酬の透明性に改善がみられない企業の取締役会議長選任に反対票を投じる方針を打ち出した。

アセットマネジメントOneも3月に基準を改定し、取締役会に占める社外取締役の割合を従来の「25%以上」から「3分の1以上」に引き上げた。加えて、東証株価指数(TOPIX)100を構成する銘柄に対しては「1人以上の女性取締役」を求め、来年度以降は東証プライム市場に上場する全銘柄に広げることを検討している。

ESG関連の上場投資信託(ETF)にも海外の視線が集まる。フィンランドの年金保険大手ヴァルマは4月下旬、野村アセットマネジメントの「日本株ESGコアETF」に3億ユーロ(約410億円)を投じた。ヴァルマは590億ユーロの運用資産を持ち、国連責任投資原則(PRI)が選ぶ先進的な投資家36社にも取り上げられている。

ヴァルマのティモ・サリネン氏は「持続可能性を考慮したESGの投資機会を探っていた」と話す。野村アセットの西崎直之シニアマネージャーは「ESG投資の拡大につながる」と期待する。

米国や欧州ははるか先を行く。米国のESG関連の株主提案は21年に500件を超え過去最高となった。温暖化ガス排出量を巡っては、より具体的な数値目標や、取引先企業の排出量の開示を求めるなど提案の深みが増している。性別や人種間での賃金格差の是正を求める「S(社会)分野」の提案も増えている。

日本では株式市場の反応は限定的だ。株主還元の提案を受けた銘柄の株価は上昇することが多いが、ESG関連は実現可能性への疑義が真っ先に浮かぶ。「米欧は株主の総意を確認する『勧告的決議』の活用が進むが、定款変更を求めざるを得ない日本はハードルが高い」(大和総研の鈴木裕主席研究員)という。

とはいえ、NPOがみずほフィナンシャルグループに気候変動対応を迫った20年の株主提案への賛成率は35%にのぼり、21年には住友商事が同様の提案を受けて石炭関連事業の削減を進める方針を打ち出した。ESGマネーが企業価値を高め、それがさらに投資資金を呼び込むとすれば、個人も株主提案の行く末に目をこらす必要がある。

(ESGエディター 古賀雄大)