Nikkei Online, 2023年2月10日 10:03
政府は10日、GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針を閣議決定した。東日本大震災後、想定してこなかった原子力発電所の建設について敷地内での建て替えを具体化すると明記した。最長60年と定めた運転期間も延長する。新しい国債「GX経済移行債」で集めた資金で企業の脱炭素を支援し、官民で150兆円超の投資をめざす。
GX推進法案も閣議決定した。GX債の発行や、企業の二酸化炭素(CO2)排出に金銭的負担を求めるカーボンプライシングを本格的に導入して償還財源とすることなどを規定した。
2050年の温暖化ガス排出量実質ゼロをめざしてGXを加速し、エネルギーの安定供給につなげる。同時に産業の競争力も高めて日本経済を再び成長軌道に戻す狙いがある。
基本方針には脱炭素電源となる再生可能エネルギーや原子力を「最大限活用する」と盛り込んだ。原発については「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組む」と記した。震災後の原子力政策を転換させる。
地域の理解を前提に、廃炉が決まった原発の敷地内での建て替えに向けて具体化を進める。その他の原発の開発や建設は今後の状況を踏まえて検討する。
建て替えは関西電力美浜原発などが候補とみられているが、具体的な場所は示さなかった。22年末のGX実行会議で決めた基本方針案にはなかった「敷地内」との表現を盛り込み、廃炉を決めた原発の敷地内であることを明確にした。
原子力を「将来にわたって持続的に活用する」との文言は削除した。「エネルギー基本計画をふまえて活用する」と修正した。エネルギー基本計画の「必要な規模を持続的に活用する」との表現を踏襲する。いずれも政府・与党内の慎重論に配慮したとみられる。
原発を新たに建設しても運転開始は30年代半ば以降とみられる。既存の原発を最大限活用するため、原子力規制委員会による安全審査の合格を前提に再稼働を推進するとともに、運転期間も延ばす。
震災後、原発の運転期間は原則40年、最長60年と定めていた。新制度ではこの枠組みを残したまま、規制委による震災後の審査で停止していた期間などに限り追加の延長を認める。60年超の運転が可能になる。規制委は運転開始から30年を超える原発の安全性を10年以内ごとに審査する。
再生エネの導入を加速するために送電線も増強する。大手電力各社のエリアをまたぐ送電網は今後10年で過去10年と比べ8倍以上の規模で整備する。洋上風力の導入が本格化する北海道から本州への海底送電線は30年度の運用開始をめざす。
企業の脱炭素投資を支援するため、GX債を23年度から10年間にわたって発行し、計20兆円規模を調達する。電動車の普及拡大、鉄鋼や化学といった排出量の多い産業の構造転換、企業や建物の省エネ、燃やしてもCO2が出ない水素やアンモニアの供給網構築などを支援する。企業のGX投資を引き出す。
50年度までに償還を終えるためカーボンプライシングを導入する。23年度から企業が自主的に参加する排出量取引を試験的に始める。企業が政府目標を上回って排出を削減できた場合に、削減量を増やしたい企業に売却できる。26年度に本格的な運用を始め、33年度には電力業界を対象に排出枠を有償で買い取らせる仕組みを取り入れる。
28年度に化石燃料の輸入業者を対象に炭素賦課金も導入する。負担は徐々に重くする方針で、早期に化石燃料への使用量を減らした方が負担が少なくて済む。排出量取引制度の運営や賦課金の徴収を担う「GX推進機構」を創設する。
ロシアによるウクライナ侵攻で世界のエネルギー情勢は一変した。欧州連合(EU)は30年の再生エネ比率の目標を40%以上から45%以上へ引き上げる考え。米国は歳出・歳入法(インフレ抑制法)によりエネルギー安全保障と気候変動対策に3690億ドル(48兆円)を充てる。世界がエネルギー転換を急ぐなか、日本がGXの後れを取り戻せるかどうかは産業競争力や国民生活に直結する。