Nikkei Online, 2023年2月10日 22:00
政府は10日、2050年の温暖化ガス排出の実質ゼロをめざすGX(グリーントランスフォーメーション)基本方針と関連法案を閣議決定した。原子力発電所の建て替えを明記した。原発や再生可能エネルギーに充てる新たな国債を出し、民間資金と合わせ10年で150兆円超を投じる。世界の脱炭素投資は既に年1.1兆ドル(約145兆円)規模で日本は出遅れる。産業競争力の向上につながる効率的な使い方を探る必要がある。
ブルームバーグNEFによると、世界の脱炭素関連投資は22年だけで約145兆円に上った。中国は約72兆円、欧州連合(EU)は約24兆円、米国は約19兆円だった。日本は約3兆円どまりだ。新方針に基づいて23年度以降、単純平均で年15兆円に伸ばしても他の主要国・地域のペースに追いつかない。
ウクライナ危機による化石燃料の高騰を受け、世界では再生可能エネルギーが急拡大している。輸入燃料に頼らず自国で発電でき、エネルギー安全保障につながるためだ。
国際エネルギー機関(IEA)によると中国は22年に最大1億8000万キロワットの再生エネを増やしたもようだ。この伸び幅だけで日本が持つ全ての再生エネの発電設備を上回る。ロシア産の化石燃料の輸入が急減した欧州連合(EU)は6200万キロワット増だった。日本は1000万キロワット増にとどまる。
IEAの22年12月時点の見通しでは、日本は23年を境に再生エネの導入量の伸び率が鈍化する。気候変動対策などを柱としたインフレ抑制法が成立した米国は、米エネルギー情報局によると23年の1年間で太陽光の導入量が2910万キロワットになる見通しだ。ますます差が開きかねない。
新たなGX方針をテコに巻き返せるかは見通せない。官民150兆円のうち20兆円は政府がGX移行債で調達する。130兆円超は民間投資という想定だ。国が策定した工程表からは企業のインセンティブが見えにくく、計画通りに民間資金が集まるとは限らない。
投資先は再生エネに20兆円超、送電線や蓄電池に11兆円超、電気自動車(EV)など次世代自動車に34兆円超などと想定する。具体的な案件の選定や投資を促す政策づくりはこれからだ。
投資を促す実効的なルールづくりも課題だ。EUは一定規模以上の公共建築物や商業ビルで27年までに新築・既築を問わず太陽光発電の設置を義務化し、新築住宅は29年までに義務化する方向で検討している。日本は東京都が義務化を決めたものの、全国的な広がりは欠く。
脱炭素に逆行しかねない政策が並行して進む問題もある。政府は高騰するガソリン代や電気・ガス代の負担軽減に既に9兆円を措置した。
かつて日本の企業は太陽光パネルや蓄電池の開発、生産で世界の先頭ランナーだった。普及期に中国や韓国のメーカーに追い抜かれた。脱炭素の取り組みは中長期の国力を左右する。官民で150兆円の巨費を成長につなげる「賢い支出」に振り向けられるかが試される。
(気候変動エディター 塙和也)