ノーベル賞の中村氏ら、核融合の新興設立 東芝系と協業

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    Nikkei Online, 2023年7月22日 19:00

レーザー核融合のスタートアップを創業した中村修二氏(左)と太田裕朗氏

【シリコンバレー=山田遼太郎】ノーベル賞受賞者の中村修二氏らが、レーザー核融合のスタートアップ企業を米国に設立した。2030年をめどに日本か米国で商用炉を建設する計画で、東芝系などと組んで技術実証を進める。技術的課題はあるが、脱炭素の切り札として期待される核融合発電に取り組む企業が増えてきた。

中村氏は米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授で、14年に青色発光ダイオード(LED)の開発でノーベル物理学賞を受賞した。22年11月、同氏が最高経営責任者(CEO)として米ブルー・レーザー・フュージョン(BLF)を創業した。中村氏の起業は3社目だ。

ドローン開発のACSLで社長を務めた太田裕朗氏が技術トップとして共同創業の形で参画した。同氏はACSLを上場に導いた実績がある。

レーザー照射で核融合反応

BLFが取り組むのは、燃料に強力なレーザーを照射して核融合反応を起こし、エネルギーを取り出す技術だ。独自の特許をもとに高出力で連続してレーザーを放てる装置を開発する。安定して発電できない現在の核融合の課題の解決を目指す。

ベンチャーキャピタル(VC)のジャフコグループや、トヨタ自動車などが出資しスパークス・グループが運営する「未来創生ファンド」などから2500万ドル(約35億円)を調達した。米国の投資家から追加の資金確保も目指す。

BLFは創業から約半年で十数件の特許を米国などで出願した。事業価値の裏付けがほぼ知的財産に限られる創業期の資金調達では異例の大きさだ。

中村氏は日本経済新聞の取材に「半導体レーザーの知見を生かし、繰り返し実験できる安全性の高い方法で核融合発電の商用化を目指す。世界のエネルギー問題の解決に貢献したい」と語った。核融合に取り組むのは学生時代からの念願だったという。

東芝系と協業で日本に実験プラント

発電技術の確立に向け、原発向けタービンなどで実績のある東芝エネルギーシステムズや金属加工技術の由紀ホールディングス(東京・中央)と協業する。両社の協力を得て装置をそろえ、24年中に日本国内で小規模な実験プラントをつくる。

30年の段階で、原子力発電所の約1基分に相当する1ギガワットの発電ができる炉を日米のいずれかで稼働することを目指す。

BLFは特許出願中のため技術の詳細を明らかにしないが、強力なレーザーを繰り返し照射できるめどを理論上はつけたという。燃料には核融合で一般に使う重水素の代わりにホウ素を使い、放射線である中性子が出ない利点もある。


世界で43社が核融合に挑む

核融合にはレーザー方式と、磁気の力でプラズマを制御する「磁場閉じ込め」方式の2通りがある。

磁場閉じ込め式では三菱商事などが出資する京都フュージョニアリング(東京・千代田)が5月に105億円の調達を発表した。レーザー方式では大阪大学発のEXーFusion(エクスフュージョン、大阪府吹田市)が7月に18億円の調達を発表している。

米核融合産業協会が7月にまとめた報告書によると、世界で43社が核融合に挑む。前年から10社増えた。累計の資金調達総額は60億ドルを超える。国内外で競争が活発になり、実用化が早まるとの期待がある。

核融合の2つの方式のうち、多くの企業が取り組み、本命視されてきたのは磁場閉じ込め式だ。同方式では日米中など世界の主要国がフランスで国際熱核融合実験炉(ITER)の建設に取り組む。総額2兆円超の投資だが、大型装置の開発などが難航し稼働が遅れる懸念が出ている。

米ローレンス・リバモア国立研究所の実験施設=ロイター

核融合を起こすには燃料をセ氏1億度以上に加熱し、原子核に含む陽子や電子が自由に飛び回る「プラズマ」状態をつくる必要がある。連続して発電するハードルは極めて高い。

レーザー方式では大型の装置の場合は連続してレーザーを打てず、小型装置では出力が足りず発電できないのが現状の課題だ。

22年12月に米ローレンス・リバモア国立研究所が初めて、核融合の実験で投入した量よりも多くのエネルギーを発生させることに成功した。ただし瞬間的なもので、安定した発電には遠い。

同方式に取り組むスタートアップは世界で10社以下とみられるが、日本では阪大に実験装置があるなど研究の蓄積があり、資金が集まり始めた。