Nikkei Online, 2023年8月21日 21:16更新
経済産業省は水素を活用する航空機の開発を後押しする。水素燃料電池をつくる企業に補助金を出す。二酸化炭素(CO2)を排出しない次世代機の登場を見据え、日本が強みを持つ航空機部品で競争力を維持する。2030年度までに飛行実証試験をめざす。
産業の脱炭素化を促すため設けた総額2兆円の「グリーンイノベーション基金」を活用する。公募条件や補助金額といった詳細を今年秋にも決める。
航空機に搭載する水素燃料電池や関連システムを開発する企業を支援する。航空機部品メーカーのほか、自動車用の水素燃料電池の開発企業などを対象として想定する。
水素燃料電池は水素と酸素を化学反応させることで発電し、CO2を出さない。電気自動車などに使うリチウムイオン蓄電池よりもエネルギー量が大きく、小型航空機に向いているとされる。
25年度までに燃料電池の仕様を固め、30年度までに航空機で性能などを試験する。
水素航空機は燃料電池を動力源としたり、水素そのものをエンジンで燃焼したりして推力を得る。欧州エアバスが先行する。水素燃焼型のエンジンと水素燃料電池を組み合わせたシステムで35年の商用飛行を目標にする。
米国や英国のスタートアップはすでに試験飛行を実施している。日本は次世代航空機に国産の燃料電池やシステムを採用してもらう戦略を描く。
水素燃料電池の実用化は35年以降になる見通しだ。野村総合研究所の西和哉シニアコンサルタントは「航空機は安全性の確保のため開発に10年程度かかる。部品やシステムを供給する企業は早めに動くことが重要だ」と話す。
日本は航空機部品に強い。国内の主力機であるボーイング787の機体では部品のシェアは35%、エンジンでは15%程度だ。次世代機向けでは欧州や韓国の企業などが開発を急ぐ。
次世代化の波に乗り遅れれば、航空機部品やシステムのサプライチェーン(供給網)から排除される可能性がある。一方で製品の規格開発などで先行すれば新たな競争でも優位に立てると見込まれる。
航空分野は鉄道などの輸送体系に比べてCO2排出量が多い。欧州で航空機利用は「飛び恥」とも呼ばれ、環境負荷の高さが問題視されている。国際エネルギー機関(IEA)によると、21年の航空業界のCO2排出は世界でおよそ7億トンで、全体の2%程度を占める。
主要国は「空の脱炭素」にカジを切っている。国連の専門組織、国際民間航空機関(ICAO)は50年に国際線からの排出を実質ゼロにする目標をかかげる。航空会社は達成できなければ、CO2のクレジット(排出枠)を購入しなければならない。
日本は脱炭素に向けて水素活用のほか、再生航空燃料(SAF)の導入や低燃費機材の導入といった技術革新、効率的な経路による運航改善などの対策を進める。
SAFはすでに航空機で利用が始まっている。日本政府は30年から石油元売りに対し、日本の空港で国際線に給油する燃料の1割をSAFにすることを義務付ける。燃料の調達網や生産体制の整備などが課題となる。