日本製鉄、鉄鋼スラグで脱炭素 北海道でブルーカーボン

<<Return to Main

    Nikkei Online, 2023年9月5日 5:00

森町で敷設する鉄鋼スラグとホタテ貝を混ぜた石材(8月、室蘭市)

日本製鉄が鉄鋼生産の副産物であるスラグを使って海藻を育て、二酸化炭素(CO2)を吸収する「ブルーカーボン」の取り組みに力を入れる。10月には北海道森町と組み、鉄鋼スラグを主材料とした石材を海に敷設する。ウニによる食害などで海藻が減る「磯焼け」に悩む海域で案件を拡大する。

ブルーカーボンとは、コンブなどの海藻が光合成で吸収する炭素を指す。海藻が取り込んだ炭素は底泥に埋没する。炭素の貯留期間は最大で数百年から数千年とされ、数十年の森林より長い。国連環境計画(UNEP)は2009年の報告書で、海藻藻場や湿地・干潟などのブルーカーボン生態系が温暖化対策の有力な選択肢になるとした。

日本製鉄は10月から、森町でブルーカーボンの取り組みを始める。鉄鋼スラグとホタテ貝を混ぜた石材を海岸から200メートルほど離れた沖合に投入する。実証期間は25年3月末まで。

森町ではホタテの養殖が盛んだ。だがホタテの加工後に残る貝殻の処分に「長年、頭を悩ませていた」(森町役場水産課水産係の山本和司係長)。これまでは家畜のふんなどと混ぜて堆肥として農家などに販売してきたが、売れ行きは思わしくなかったという。

磯焼けにも手を焼いていた。鉄鋼スラグには鉄分など、海藻の成長に必要な成分が多く含まれるため「コンブの成長に役立つ」(日本製鉄、北日本製鉄所の生産技術部資源化推進室の大西健室長)。

鉄鋼スラグと堆肥を混ぜたものを海岸沿いに埋めてコンブの育成を促す

日本製鉄は、鉄鋼スラグと腐葉土を混ぜて袋に詰めた「ビバリーユニット」を全国40カ所以上の海岸などに敷設している。04年に増毛漁業協同組合(北海道増毛町)と実証実験を開始。効果を確認したうえで14年、増毛町の別苅海岸沿いに45トンのビバリーユニットを270メートルにわたり敷設した。藻場は22年に5倍強に広がったことが確認されている。

増毛町ではコンブの生育状況が一時期よりも回復してきている(8月、増毛町)

日本製鉄と増毛漁協はブルーカーボンのクレジット認証も取得した。別苅海岸で18〜22年の5年間に吸収・固定化されたCO2は49.5トンに及ぶ。増毛漁協の忠鉢武参事は「20年ほど前は磯焼けがひどくコンブもウニもあまりとれなかった。日本製鉄と藻場の再生に取り組んだことで、コンブは着実に成長している」と手応えを感じている。

ブルーカーボンへの注目は増している。ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE、神奈川県横須賀市)によると、国内の海藻などのCO2吸収量(2019年)は最大で年404万トン。ブルーカーボンの取り組みが拡大することで30年には同518万トンまで増えると予想する。

政府も後押しする。国土交通省は23年度中にブルーカーボンを手がけたい企業と、藻場の形成に携わる漁協などの団体とをマッチングさせたり、事業ができそうな場所の情報提供をしたりする枠組みを立ち上げる。クレジットの市場規模も拡大し、JBEによると22年度に認証されたCO2の量は3733.1トンと、21年度比で約46倍に膨らんだ。

JBEの桑江朝比呂理事長は「足元でブルーカーボン由来のクレジットを認証している案件は全国で約20件だが、25年までに50件程度に増える。クレジットの取引量はさらに活発になる」と予想する。

鉄鋼会社やエネルギー会社など温暖化ガスを多く排出する会社は、燃料転換だけで温暖化ガスの排出実質ゼロを実現するのは難しい。ブルーカーボンをはじめCO2を地中に埋めるCCSなど、CO2を吸収・固定化する取り組みを活用しカーボンニュートラルを目指す。

政府は50年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする方針を掲げる。目標達成のため海に囲まれた日本では、地元と企業が協力しブルーカーボンを活用する事例が広がりそうだ。

(燧芽実)