Nikkei Online, 2018/7/9 22:38更新
西日本を襲った記録的豪雨による死者は9日までに126人、80人以上の安否が分かっておらず、平成に入って最悪の豪雨災害となった。高速道路の通行止めや鉄道の運休も続いており、企業活動への影響が長引くことも予想される。想定を超える量の雨で、河川が氾濫する災害は近年相次ぎ、ソフト面を含めた新たな水害対策が求められている。
同庁は6日以降、「数十年に一度の重大な災害が予想される」として京都、広島、岡山、兵庫、岐阜、愛媛などの1府10県に「大雨特別警報」を発令。123地点で8日までの2日間の雨量が観測史上最高を更新した。
国土交通省によると、台風7号による被害も含め、岡山県など7カ所で堤防が決壊。国が管理する36河川123カ所、道府県が管理する83河川91カ所で水が堤防を越える越水や堤防のない河川があふれる溢水(いっすい)などが発生した。
岡山県倉敷市の真備町地区では小田川の堤防2カ所が決壊し、約1200ヘクタールが浸水。本流の高梁川の水位が上がり、支流の小田川が合流できなくなる「バックウオーター」現象が起きた。周辺では過去にも氾濫が起きており、国交省は合流部を下流へ移す工事を予定していた。
気象庁によると、河川の氾濫などで1万棟以上の建物が浸水するなどした豪雨は、2004年以降で11回発生している。
国交省は河川ごとに200年、100年に一度の豪雨を想定した整備方針を定めているが、工事が完了した河川はない。18年度の治水事業費は7961億円で、ピークだった1997年度の1兆3700億円からは大きく減った。財政面の制約もあり、短期間で工事を進めるのは難しい。
同省は堤防などの限界を超える集中豪雨が多発する現状を踏まえ17年に水防法を改正。30項目以上の緊急行動計画を取りまとめるなど、ソフト面の対策に力を入れる。
企業の豪雨への備えも他の災害に比べて遅れが目立つ。内閣府が17年度にまとめた調査では、事業継続計画(BCP)を策定済みの企業のうち洪水を想定した計画があるのは3割にとどまった。
菅義偉官房長官は9日の会見で「ここ数年、従来とは桁違いの豪雨で被害が繰り返し発生している。被害のリスクを減らすためどのようなことができるか改めて検討する必要がある」と述べ、大雨特別警報の発表方法を見直す考えを表明した。
YomiuriShimbun Online, 2018年07月09日 20時44分
愛媛県西予せいよ市野村町では、7日早朝に町内を流れる肱川ひじかわが一気に増水、中心部の広範囲が水につかり、逃げ遅れたとみられる5人が犠牲になった。約2キロ上流にある野村ダムが豪雨で満杯となり、放水量が急激に増えたことが氾濫の原因の一つとみられるが、早朝の急な放水情報が十分に届かなかった住民もいた。
西予市野村町の女性(65)は7日午前6時頃、消防団に避難を呼びかけられ、約30分後に両親と夫と車で避難しようとした。しかし、すでに川は氾濫。自宅に戻ったところ、すぐに2階まで水につかり、屋根に上って救助を待った。数時間後に水が引いたため助かったが、女性は「ぎりぎりだった。命があって良かった」と声を震わせた。
西予市では7日午前7時半までの24時間雨量が観測史上最大の347ミリにのぼった。雨水は野村ダムに流入し、満杯になるとダムから水があふれ出るため、四国地方整備局のダム管理所は午前6時20分、流入分とほぼ同量の水を放出する「異常洪水時防災操作」を開始。放水量は操作前の2~4倍に急増し、午前7時50分には過去最多の毎秒1797立方メートルに達した。
通常は放水する場合、ダム管理所が事前に市にファクスで知らせるが、今回は「状況が厳しく数時間後に放水量が増える」と、市に電話で連絡した。
また午前5時15分からは川沿いのサイレンを鳴らして放水を知らせるなどし、同整備局の清水敦司・河川保全専門官は「ダムが満杯になれば水をためることは不可能。定められた通りに対応するしかない」と語る。
一方、市は午前5時10分に同町内の一部に避難指示を発令。防災行政無線で「肱川が氾濫する危険性があるので、すぐに避難して」と呼びかけたが、「ダムの放水量が増える」という情報は発信していなかった。
これに対し、防災無線が聞こえなかったとの声も。男性(42)は、妻の友人からのLINEラインで避難指示に気付いたという。前夜、国土交通省の出先事務所に聞くと「堤防を越えるようなことにはならない」と言われたといい、「ダムの決壊を防ぐためとはいえ、何とかならなかったのか」と憤る。男性(85)は「放水量が増えると知っていたら、もっと早く逃げたのに」と話した。
西予市の担当者は「想定外の雨量で、当時としては最善の選択をしたつもりだ。今後、情報発信について検証したい」と語った。
Sankei-West Online, 2018.7.10 07:43更新
川の氾濫で広範囲が冠水し、住宅に浸水するなどして4人が犠牲になった愛媛県大洲市。安全とされる基準量の約6倍に当たる最大毎秒約3700トンの水がダムから放流された。治水の担当者は「予想を超えた雨量だった」と話すが、住民からは「ダムの操作は適切だったのか」と疑問の声が上がっている。
同県西予市から大洲市を経て、瀬戸内海へ流れる肱川の上流にある鹿野川ダム(大洲市)。安全とされる放流量の基準は毎秒約600トンで、超えると家屋への浸水の可能性があるとされている。
大洲市などによると、台風7号が九州に近づいた3日から基準の約600トンを上限に徐々に放流を開始。7日午前5時半には雨量が増し、上限を毎秒約850トンに引き上げた。午前7時すぎにはゲートをほぼ開いたままにせざるを得ず、午前9時ごろ、川の水が堤防を越え始め、放流量は最大毎秒約3700トンに達した。
肱川中流に位置する市中心部などの約4600世帯に浸水し、住民は家の2階や屋根の上に一時取り残された。車に乗ったまま流されたり、自宅に水が流れ込んできたりして4人が死亡し、水源も被災。9日時点、約1万世帯で断水が続いており、約2メートルの高さまで浸水した一部のコンビニやスーパーは営業のめどが立っていない。
大洲市治水課の担当者は「雨量が多過ぎてダムの容量を超えた。やむを得なかった」と説明。管轄する国土交通省水管理・国土保全局の担当者も「ダムの操作は工夫していたが、想像を超えた雨量だった」と話した。
EhimeShimbun Online, 2018年7月9日(月)
一級河川の肱川が氾濫し、河川沿いで多数の浸水被害の出た7日から一夜明けた大洲市。浸水地区の住民らは泥だらけになりながら片付けに追われた。多数の車両がひっくり返り、生活雑貨や衣服、木の枝などが泥にまみれて散乱。住民らは「これほどの浸水は初めてだ」と口をそろえた。
東大洲の大型商業施設「オズメッセ」では7日、周囲を濁流に囲まれる中、従業員や買い物客が屋上で夜を過ごした。同店従業員(50)は「どんどん水かさが増して、午後1時半ごろに屋上へ上った」。長靴で歩けるくらいまで水が引いたのは8日未明になってからだった。
店長の男性(61)は「売り場はグチャグチャ。とにかく泥水をかき出す作業が大変」と肩を落とす。復旧のめどはたたないが、「準備でき次第、店舗前で飲料品や即席めんを販売したい」と語った。
菅田の郵便局では天井に達する高さ約3メートルまで浸水。押し寄せる水の勢いで壁面のガラスが割れ、カウンターが部屋の奥に押し流された。次局長(60)は「今までで一番ひどい。建物を見てがくぜんとした」と嘆く。東大洲の「デイサービスひかり」では膝下まで浸水。管理人の男性(37)は「衛生面を考えると復旧はだいぶ先」と見越した。
東大洲の女性(91)は、電気のつかない真っ暗な自宅2階で1人、朝まで水の引くのを待った。「怖かった。大洲で23年暮らしてきてこんな被害は初めて」。電話、水道、電気が使えずに困っているが、「食事は地域の人たちのおかげで足りている。普段の付き合いは本当に大切」とかみしめた。
徳森の平公民館には約100人が避難。7日夜は座布団2、3枚を布団代わりにした。ボランティアの炊き出しがあり、8日は給水車も出動。妻と2人で着の身着のまま飛び出したという近くの男性(88)は「1階のかもいの上まで水が入ってきた」と顔をこわばらせた。
鹿野川ダムに近い旧肱川町の中心部でも多数の浸水被害が出た。市肱川支所長(58)によると、屋根の上に避難した住民もおり、支所も2階まで水に漬かった。支所長は「(本庁に)応援を求めようと連絡したが、どちらも大変な状況だった」。
支所では8日午後5時ごろ、販売店から提供された愛媛新聞を無料配布。近くの歯科衛生士の女性(38)は「テレビは見られず、携帯もラジオもつながらない。何も分からない」と、6歳の娘と4歳の息子を連れて支所を訪れた。近くの男性(65)は「ライフラインの回復の見込みなど一体今どういう状況で、どう対応したらいいのか」と不安げな顔で語り、新聞を持ち帰っていた。
Nikkei Online, 2018/7/10 21:35
西日本を襲った記録的な大雨による農水産業への被害の大きさが次第に明らかになってきた。愛媛県宇和島市や高知県宿毛市では地域の主要産業である養殖業で大きな被害を受けた。農業の被害額も高知県と香川県では3億円を超えた。甚大な被害を受けた愛媛県では調査自体が進んでおらず、さらに被害は拡大が見込まれる。復旧にも時間がかかりそうだ。
養殖魚販売のヨンキュウも吉田町の取引先業者に被害が広がっているという。担当者は「養殖場に大量の雨水が流れ込んだことで海水の塩分濃度が下がり、養殖魚の成長が遅れるなどの影響が出る可能性もある」と懸念する。
高知県宿毛市では、松田川などから宿毛湾内に泥水が流れ込み、カンパチを中心にこれまでに20トンの養殖魚が死ぬ被害が判明した。すくも湾漁協によると「どれだけ網の中で死んでいるのか全容はまだわからない」という。職員らが10日朝から死んだ魚を引き上げて埋める作業に追われた。
隣接する大月町では水産会社のクロマグロ養殖場が被害を受けた。同町安満地の養殖場では60匹以上のマグロが死んだもよう。橘浦の養殖場では「道路状況が悪く、魚の出荷はもちろんエサの搬入もできない。まず状況確認が必要」(松岡サンライズファーム養殖場)。
農業被害の実態も続々と判明している。高知県が10日14時までにまとめた被害額は3億1700万円。前日よりも1億円以上増えた。20市町村の計212ヘクタールで被害の報告があった。安芸市のユズ園地なども大きな被害を受けた。豪雨災害としては過去10年間で最悪の被害額となった。
香川県では農林水産物と施設の被害額は10日現在で約3億4000万円となった。丸亀市や坂出市などでナスやカボチャの野菜類、モモやミカンなど果樹類が冠水や土壌流出の被害にあった。農作物そのものより農道やため池など施設の被害の方が多い。
徳島県は三好市や勝浦町で農道被害などが確認され、10日現在の施設被害額は約6900万円。阿波市などでかぼちゃやスイカ畑が冠水しており被害状況を調査中だ。
愛媛県も実態把握を進めるが、被害が広域にわたることや土砂で現場に入れない地域もあることから、全容が判明するまでには時間がかかる見込み。宇和島市や西予市でかんきつ類の果樹園が崩落。肱川(ひじかわ)が氾濫した大洲市などではスイカやキュウリ、ナス、トマトといった夏野菜の被害の可能性が指摘されている。