東海道、山陽、東北、上越、北陸、九州、北海道と、全国にフル規格の新幹線は7路線あるなか、9月23日には新たにもう1路線が加わる。佐賀県武雄市の武雄温泉駅と長崎市の長崎駅との間、69.6キロメートルを結ぶ西九州新幹線だ。
途中には嬉野温泉、新大村、諫早と3つの駅がある。列車の愛称は「かもめ」で、すべて6両編成の「N700S」という車両が用いられる。1日に47本運行(うち3本は新大村―長崎間)。半分以上は各駅停車だが、嬉野温泉駅や新大村駅を通過する列車もある。
武雄温泉と長崎とは最短23分で結ばれる。各駅停車になると、所要時間は30分程度だ。料金は大人1人が片道指定席利用で通常3600円となる。開業前は博多―長崎間を在来線の特急「かもめ」が直通していた。今後、博多駅方面とを行き来するには武雄温泉駅での乗り換えが生じる。それでも最高時速260キロメートルで走る新幹線のスピードのおかげで、博多―長崎間は最速で1時間20分と在来線時代から30分ほど短縮される。
新幹線は確かに便利だが、在来線との乗り換えは不便だと思うかもしれない。けれども、武雄温泉駅では「かもめ」と在来線の特急「リレーかもめ」や一部の「みどり」などが同じホームの両側に並ぶ。西九州新幹線、在来線の指定席券を同時に購入すれば、双方の列車の停止位置に近い号車が割り当てられるので、武雄温泉駅に着いて列車の扉が開いたら、向かい側で待っている列車を一直線に目指せばよい。
実は同じホームで新幹線と在来線との乗り換えの便を図ったケースは他にもある。九州新幹線の新八代駅、北海道新幹線の新函館北斗駅だ。ただ新八代駅でのケースは九州新幹線の新八代―鹿児島中央間が先行して開業したころの話で、博多―鹿児島中央間の全線が開業した現在は体験できない。
西九州新幹線では実際の線路の長さ66キロメートルのうち、トンネルが31カ所、合わせて41キロメートルと全体の6割ほどに達する。いまどきの新幹線という印象だ。在来線が建設された昭和初期ごろまでであれば、武雄温泉―長崎間は有明海沿いの長崎線経由か、大村湾沿いを通る大村線経由しか線路を敷ける場所がなかった。
しかし新幹線は高速で列車を走らせるため、山も何も関係なく、最短距離を直線で突き抜けるルートが選ばれる。西九州新幹線も例外ではない。基本的にはトンネルが主体の区間となる。
車窓からの見どころは新大村駅付近で見える大村湾になるだろうか。高架橋上に設けられる長崎駅ホームの屋根は光を通す開放的なつくりで、長崎港が望めると早くも評判になっている。
西九州新幹線は「全幹法」と呼ばれる全国新幹線鉄道整備法に基づく、いわゆる整備新幹線のひとつだ。起点は福岡市、終点は長崎市とされ、今回は佐賀県の一部や長崎県内の区間が開業の運びとなった。博多―新鳥栖間の28.6キロメートルはすでに開業した線路を共用することとなっている。残るのは新鳥栖駅と武雄温泉駅との間だ。筆者は県庁所在地である佐賀市の代表駅である佐賀駅を通り、最短で49キロメートルほどの距離になりそうだと推測する。
新鳥栖―武雄温泉間はいつ開業するのだろうか。実は着工のメドすら立っていない。沿線となる佐賀県の知事らが難色を示しているのが大きい。負担すべき建設費が高額になる割に、所要時間がそれほど短縮されないといった理由が挙がる。
西九州新幹線を含め、整備新幹線の建設費には新幹線を運行するJR各社に線路などを貸し付けて得る収入を充て、残りの金額の3分の2を国、3分の1を地元自治体がそれぞれ負担する決まりだ。自治体負担分の一部、半分程度は国から地方交付税として戻る形になる。
武雄温泉―長崎間の工事延長は67キロメートルで、建設費は6197億円を見込む。1キロメートル当たりの建設費は単純計算で92億4925万円となる。ちなみに佐賀県内は17.8キロメートル。県の負担額はあくまで筆者の試算になるが、JR九州から支払われる貸付料分をひとまずゼロと仮定し、戻ってくる交付税分(自治体負担分の45%と仮定)も加味すると、最大300億円程度となる。
新鳥栖―武雄温泉間を筆者が予想する49キロメートルとし、建設費が今回の開業区間と同水準と仮定すると、総工費は約4500億円となる。佐賀県の負担額は同様の前提で考えれば800億円強となる。
一方、新鳥栖―武雄温泉間の開業後の博多―佐賀間の所要時間を考えてみよう。新鳥栖―佐賀間は22キロメートルと予想され、博多―新鳥栖間の26.3キロメートル(実際の距離)と合わせて48.3キロメートル。博多―新鳥栖間は九州新幹線によって12分で結ばれ、平均速度は時速132キロメートルだ。このペースで48.3キロメートルを走ると、博多―佐賀間は22分になる。
現在、特急列車は博多―佐賀間を最速37分で結ぶ。つまり800億円強負担しながら、最も利用が多いと目される博多―佐賀間で15分しか短縮されない。佐賀―武雄温泉間の沿線にもたらす経済効果はあるし、西九州新幹線の列車が山陽新幹線に直通し、新大阪―佐賀―長崎間を結ぶとなれば、その意味は大きい。ただそうはいっても、費用対効果に関する佐賀県関係者の懸念は理解できる。
そこで整備に向けた一案を筆者が佐賀市内で講演した内容をもとに紹介しよう。全幹法の通り、西九州新幹線を福岡市―長崎市間を結ぶ新幹線、それもフル規格を前提とするのだ。
博多、新鳥栖、佐賀の3駅は直線状に並んでいないので、博多―佐賀間を新鳥栖駅経由で結ぼうとすると三角形の2辺を通る形となる。そこで新鳥栖駅を通らず、博多と佐賀とを直結させてしまう。
さすがに博多駅周辺まで新規に建設すると用地代がかさむ。そこで博多―新鳥栖間の途中、具体的には九州新幹線と線路を共用するJR西日本博多南線の終点である博多南駅で分岐・合流する。博多―佐賀間の距離は39キロメートルと想定した。平均時速124キロメートルで走れば、先ほどより4分短い18分で結ばれる。在来線特急と比べても19分早い。
新鳥栖駅経由のルートでは同駅付近でほぼ直角に曲がるカーブがあり、スピードアップは難しい。筆者の案では直線基調の線路となって速度を上げられそうだ。仮に平均で時速180キロメートルとなれば、博多―佐賀間は13分。現状より24分早いとなれば、万々歳だろう。
佐賀県からみると、建設すべき西九州新幹線の残りの距離は博多南―佐賀間の31キロメートルに佐賀―武雄温泉間の27キロメートルを加えた58キロメートルほどとなりそうだ。負担すべき建設費は先ほどの計算式でいくと、1000億円弱に増える。厳密に言うと、うち10キロメートルほどは福岡県内になるが、福岡県に負担を求めて調整が難航しては元も子もない。この構想ならば佐賀県が負担するのが得策だろう。
所要時間が短縮されても、建設費がかさんでは意味がないという意見はもっともだ。ただ各地の新幹線を見ると、よほどの大都市でもない限り、遠回りを極力避けて建設されている。東海道新幹線では横浜市と大阪市とのそれぞれ中心部さえ通っていない。佐賀県の負担は増えても、所要時間が短縮されれば、その分を取り戻せる可能性はある。西隣の長崎県にしても願ったりかなったりだろう。
筆者なりに将来像を描いてみたが、果たして西九州新幹線の残りの区間はどうなっていくのか。その行方を注目していきたい。