北陸新幹線の金沢駅―敦賀駅間(125.1キロメートル)が2024年(令和6年)3月16日に華々しく開業をしてから1年近くが経過した。次に開業するのはどの新幹線のどの区間なのか、またいつ開業するのかを展望してみたい。
筆者が見渡したところ、次に開業するであろう新幹線は、北海道新幹線の新函館北斗駅―札幌駅間だ。ただ、建設を担当している独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)によると、具体的な開業時期を示すことはできないという。元々は2030年度(令和12年度)末に開業の見込みだったが、複数のトンネルの工事で工程に遅れが生じているためだ。
原因は大きく分けて2つあるという。1つはトンネルを掘った後の残土を受け入れてくれる土地が見つからないからで、この点については、自然環境に配慮しつつ早期に決着するよう祈るしかない。もう1つはやっかいで、トンネルを掘り進めたところ、予期せず強固な岩の塊や地質不良の箇所が現れ、難工事となっているからである。
開業時期が未定なのに、同区間が「次に開業する新幹線」なのかと疑問に思われたかもしれない。ただ、計画されている他の新幹線は、さらに見通しが立っていないのが実情だ。
JR東海が建設しているリニア中央新幹線の品川駅―名古屋駅間(285.6キロメートル)は2014年(平成26年)12月に着工となり、当初は2027年(令和9年)の開業を目指して工事が進められていた。ところが、南アルプストンネルの静岡県内の区間は、トンネルの掘削によって大井川が水枯れする懸念があるとして同県の理解が得られず、着工に至っていない。
2024年には静岡県が同区間での地質調査を認めるようになった。水資源問題が解決すれば着工も近いと思われるが、JR東海に聞いたところ、着工したとしても完成までに10年は要するであろうとのことで、開業は2035年(令和17年)以降となる見通しだ。北海道新幹線の新函館北斗駅―札幌駅間の工事の遅れが長引いた場合、リニア中央新幹線のほうが先に開業するかもしれないが、どちらにせよ、かなり先の話であることは間違いない。
他にも実現が見込まれる新幹線はあと2つあるが、どちらも着工はおろか具体的なルートすら決まっておらず、現時点では開業時期が見通せない。
1つは北陸新幹線の敦賀駅―新大阪駅間だ。2024年末には鉄道・運輸機構によって、詳細な通過地や途中駅の場所などが発表される予定だった。ところが、大都市であるとともに古都でもある京都市内をどのように通過するかで意見が分かれたほか、トンネル工事で地下水への影響が出ると懸念する声が沿線から上がり、結論が出ていない。
事前に発表されていた大まかなルートは、敦賀駅から福井県小浜市へと西に進み、南下して途中、京都市の都心部を通過しながら京都府を縦断して同府京田辺市に到達したら西に進路を変えて新大阪駅に向かうというものだった。
このルートでの実現は難しいので、かつて不採用となった米原駅経由のルート案を復活させてはという声も聞かれる。敦賀駅から琵琶湖の東側を南下し、東海道新幹線の米原駅に向かう経路だ。
だがこちらの案も実現しないと筆者は考える。建設には地元の滋賀県、営業を担当するJR西日本の同意が必要だが、共に消極的だからだ。補足すると、滋賀県はこのルートでの建設自体は賛成ながら、新幹線開業に伴ってJR西日本から経営分離されることが濃厚となる北陸線の敦賀駅―米原駅間の受け入れに反対している。
筆者としては小浜市を通るルートを生かし、もう少し東寄りを通って京都府と滋賀県との県境付近をトンネルで南下すればよいのでは、と考える。ただこの案も比叡山の真下を通ることとなって反対される可能性もありそうだ。
もう1つの西九州新幹線の新鳥栖駅―武雄温泉駅間に至っては、どこを通るかの具体的な計画が立案される兆しすらない。沿線となる佐賀県が1400億円以上ともいわれる建設費の負担を嫌い、建設への合意が得られていないからだ。
この件に関しては本連載でも触れたことがあり、解決策は2つある。1つは佐賀県分の建設費を減らす、またはなくすことだ。けれどもこれは不公平だと他の県が文句を言うであろう。もう1つはできる限り佐賀県を通る距離を短くすることだ。
一案として、佐賀県内を通る長さを最小限に抑えるため、武雄温泉駅から新鳥栖駅に向かうのではなく、博多駅との間を一直線に結ぶことを考えてみた。地図上で測定すると長さは56.8キロメートルで、うち約40キロメートルが佐賀県内の区間となる。佐賀県の代表駅である佐賀駅を通って新鳥栖駅へと結ぶルートより、佐賀県を通る区間を8キロメートルほど短縮できた。
西九州新幹線の武雄温泉駅―長崎駅間の建設費は6197億円で、1キロメートル当たりの建設費は89億円となる。仮にいま開業していない区間にこの数値を当てはめると節約できる建設費はおよそ700億円と無視できない金額だ。佐賀県の負担額も200億円程度は減るであろう。武雄温泉駅から一直線に博多駅を目指すと、在来線の長崎線と並行しないこととなるため、佐賀県はJR九州から新幹線開業に伴って経営分離されるであろう並行在来線を引き継ぐ必要はない。
だが、この案にも欠点がある。福岡県を通過する区間が出てくるため、建設費の一部を同県が負担しなくてはならないが、果たして承諾するであろうか。またJR九州は、本来であれば経営分離できた在来線の営業を続けなくてはならないうえ、佐賀駅という利用者の多い駅を通らないルートを余儀なくされる。これにはさすがに反対するはずだ。
結局のところ、整備新幹線は国が音頭を取って計画を進めても、JR旅客会社や沿線の地方自治体が納得する内容でなくては話が先に進まない。着工したとしても、北海道新幹線の新函館北斗駅―札幌駅間のように予期せぬ事態になることもある。新幹線の開業による恩恵は大きいものの、開業に至るまでの苦難もまた大きい。