IBM、AIで雇用創出 CEO「5年後、事務30%代替」

開発・コンサル増員 利用時の規制には理解

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Source: Nikkei Online, 2023年5月28日 2:00

インタビューに応じる米IBMのアービンド・クリシュナCEO

5年後には単純な事務作業の30%が不要になる――。
米IBMのアービンド・クリシュナ最高経営責任者(CEO)は日本経済新聞の取材に応じ、文章や画像を生成する高度な人工知能(AI)の登場などで働き方が大きく変わるとの見通しを語った。効率的な働き方のためには「テクノロジーは選択肢ではなく、必要不可欠になる」と強調した。

米オープンAIが2022年11月に公開した対話型の生成AI「Chat(チャット)GPT」は人間のような巧みな受け答えで世界に衝撃を与えた。これまで主にホワイトカラーが担ってきた企画書の作成や議事録の要約なども得意とする。産業界では働き方や雇用への影響に関心が高まっている。

IBMはバックオフィス(間接部門)で推計約2万6000人の社員を抱える。同部門では生成AIなどの活用によって「5年後には繰り返しの多い業務の30%が不要になる」と述べた。生産性の向上で生まれる余力は「ソフトウエア開発やコンサルティング、営業などより価値を生み出す役割に割り振る」という。

従業員をAIに置き換える単純な人員削減は否定した。事業拡大に伴って2023年1~3月は「不必要な業務を削減しても、2000人を増員した」という。AIの導入によって自社の競争力を高め、「正味で雇用創出につながると考えている」と強調した。

5月には企業向けのAI「ワトソンX」を発表した。顧客が自社のデータを使って生成AIに学習させ、文書の草案作成や苦情の分類などに利用できる。クリシュナ氏はAIの応用分野は素材開発や広告制作、サイバーセキュリティーなどで広がるとの見通しも示した。


クリシュナ氏は「(過去にも)仕事の性質は変わり続けてきた」と指摘する。具体例として1900年に4割を占めていた米国の農業従事者の割合が工業化によって足元では数パーセントまで下がったという例をあげた。多くの先進国で人手不足が進むなか、「人がより価値の高い仕事をするためにはテクノロジーが不可欠だ」と主張した。

偽情報の拡散や差別の助長などに悪用される懸念から、生成AIの開発や利用に規制をかけようとする動きもある。クリシュナ氏は「ある技術を丸ごと規制するとイノベーションを遅らせ、進歩を止めてしまう」と指摘し、技術開発を制限する考えには否定的な立場を示した。

一方で公共の場での顔認証など、利用シーンのリスクなどに応じた規制を検討する欧州連合(EU)の試みについては「完璧ではないが、良い枠組みだ」と一定の理解を示した。悪意を持った「使われ方」が問題になる恐れがあるとして、使用ケースに応じた「精密」な規制が必要だと述べた。

IBMは米グーグルと並び、次世代の高速計算機である量子コンピューターの開発をけん引する。21日には米シカゴ大学と東京大学に10年で計1億ドル(約140億円)を拠出すると発表した。クリシュナ氏は「日本は数十年にわたり(量子コンピューター関連の)専門知識を蓄積してきた」と述べ、日本との連携を通じて開発を加速する考えを示した。

量子コンピューターは将来、スーパーコンピューターでも困難な複雑な問題を高速に解くと期待されている。現時点ではまだ基礎研究の段階にとどまるものの、クリシュナ氏は3~5年後には一部でビジネスに活用できる性能に達すると予測した。

IBMは日本で最先端半導体の量産を目指すラピダスと技術ライセンス契約を結び、米ニューヨーク州の研究施設に技術者を受け入れている。クリシュナ氏は日米間の人的交流によって「さらに多くのコラボレーションが進む」と期待を寄せた。

 

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